領土問題は難しい2010/11/10

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突問題(9月7日)、ビデオ公開の問題も加わって複雑化している。そもそも尖閣問題どうすんだ、もっと踏み込んだ方針を示せとせっつかれるが、なかなか一発解決の妙案はない。
 領土問題っていうのは難しい。一歩間違えば、「ナショナリズム」を相互にエスカレートさせてコントロールが効かなくなる。過剰に譲歩したように見えれば批判の的になることがわかっている。しかし典型的なゼロサムゲームだから、強硬一辺倒では落としどころは見つからない。強硬対応の応酬をしていけば行き着く先は戦争だ。
 ちなみに日本政府は尖閣は固有の領土で領土問題は存在しないという立場で、私らもこの立場を支持しているわけなんだけど、「領土問題はない」と言ったって、それを認めない国があるのだから無視して済むわけではない。
 中国漁船衝突の直後の9月15日、ロシアとノルウェーは、バレンツ海・北極海について国境線を画定する合意文書に調印した。お互い譲り合って合意したことで、資源開発に乗り出すことが可能となった。この問題は1970年、旧ソ連時代から40年間にわたる領有権争い。世界にはこうした領有権紛争がゴマンとある。
 例えば有名どころでは、アイルランドをめぐるイギリスとアイルランド。カシミールをめぐる印パ、中国。ゴラン高原をめぐるシリアとイスラエル、ナゴルノ・カラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニア等々。マレーシアサバ州をめぐるフィリピンの主張。ハンス島をめぐるカナダとデンマークの領有主張。ジブラルタルをめぐるイギリスとスペインなど、主要国間で長年続いている紛争も少なくない。
 日本に直接関わるのは尖閣諸島、竹島、千島列島(北方領土)だが、宗教を背景に長年の血で血を洗う抗争を経験してきたパレスチナやアイルランド問題などと比べれば、深刻度はずっと低いはずだ。中でも尖閣諸島は現住民がいないのだから、権益を確保しながら互いの利益を得られる妥協点を探せばよい。ただ、ナショナリズムが加熱した状況下では、冷静な議論ができないので、環境を見定めながら進める必要がある。その意味では、とりあえず棚上げして、議論のタイミングを探ることがよいと思うが、こうした主張は「弱腰」と受け止められるおそれもあるので難しい。もちろん棚上げにするとして永遠ではなく、その間も主張すべきは主張しておく必要があることは当然である。
 いずれにしても、国境を接する国の間で、領有をめぐる争いや議論があることはむしろ当たり前のことだ。こうした意見の相違を長い時間をかけて解決をしてきた。失敗すると泥沼の混乱に至る。僕らが肝に銘じるべきは、とにかく頭を熱くして軍事的な対応に流れるようなことがあってはならないということだ。
 ところで、国内でも深刻な領土問題がたくさん残っている。東京新聞(11月8日朝)によると、江東区と大田区の間の埋め立て地(中央防波堤周辺/現在377ヘクタール・将来989ヘクタール予定)をめぐる領土紛争が激しくなっているらしい。1973年から江東区が建築確認などの行政事務を暫定的に担い「実効支配中」。江東区が「埋め立て工事車両の渋滞や騒音に耐えてきた」と訴えれば、大田区は「のり漁場を放棄した場所」と反論し、互いに「歴史的経緯」を主張しているという。2002年までは品川、港、中央の3区も帰属を主張していた。江東区は9月28日、「歴史的経緯を踏まえれば、本区へ帰属することが当然」とする意見書案を区議会に提出。大田区は翌29日に「大田区に帰属すべきもの」との主張を加えた意見書を区議会に出し、互いに譲る気配はない。かつて、お台場の帰属をめぐっても5区が争い、都の自治紛争調停で解決した経緯もあったっけ。
 蔵王山の県境(山形県と宮城県)が裁判で争われ、30年かけて1990年代半ばにようやく解決した。廃藩置県以来の争いであった十和田湖の青森県と秋田県の争いは2008年8月に137年を経てようやく確定。富士山山頂の帰属をめぐる静岡県の争いはまだ係争中だ。 都内だけでも、東京高速道路部分の中央区・千代田区・港区、荒川河口部の江東区・江戸川区、鳥島をはじめ10カ所程の区境は未確定だ。時に、厳しいやりとりもあるが、それなりにコントロールしながら少しずつ合意点を見いだしたり、当面棚上げのまま現実的に対処したりしているのである。
 自治体間の境界と、国と国の境界では話が違うが、権力や権限の境界を引くというのはなかなか難しい作業だということでは同じ。焦らず、拙速に短絡的な手段に流れることなく、ゆったり構えて、最適の解を見つけていくしかないと思うのだが…。

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