司法修習給費制の廃止1年延期 ― 2010/11/18
司法修習生の給費制廃止を1年延期することが決まった。18日、民主・自民・公明幹事長が合意。先月末に一度決まりかけたが、自民党内がまとまらなかった。「もはやこれまで」というあきらめ感が漂っていたが、滑り込みセーフという感じ。24日にも衆院法務委員会で委員長提案で可決する見込みだ。
今月1日に給費制を廃止するための裁判所法一部改正が施行され、いったん廃止となった後も、若い修習生や法科大学院生たちが議員会館の前で粘り強くアピールをしていたけど、本当によかった。今年の司法試験合格者の修習が始まる11月27日までに成立すれば、実害は生じずにすむ。
自民党が「民主党内がまとまっていない」という理由で反対したことからも分かるように、実は民主党内もまとまっていない。社民党も国民新党や新党日本に給費制の継続を持ち出したが、同意を得られなかった。法曹は「権利の守り手」であり公共的・公益的役割果たせるよう経済的な保障をしろという主張は、なかなか他の職種からの理解を得られないのだ。公共的・公益的な仕事は法曹だけじゃないだろう、他の公共的・公益的な職業資格を得るためにも給費しろよ、とか言われてしまう。
私自身は給費制度を断固維持すべきという立場だが、正直いって遅すぎると思っていた。給費制度の廃止・貸与制への切り替えはすでに2001年6月の司法制度改革審議会意見書に明記されており、日弁連もパッケージで合意している。司法制度推進委員会には日弁連も入り、法曹三者の合意の下で司法制度改革・法曹養成制度改革に取り組んで来たのだ。給費制廃止を決めた04年6月の司法制度改革推進本部事務局法曹養成検討会には日弁連も入っている(ただし川端弁護士は少数意見を付した)。
当初は新たな法科大学院卒の最初の司法修習生が生まれる06年から貸与制に切り替える予定であったが、法科大学院生や修習生の反対運動もあって今年まで延期されていたもの。日弁連本体がきちんと反対しようとすれば十分な時間があったはずなのだ。
実際には、今年の4月に宇都宮健児弁護士が日弁連会長に就任して執行部の体制が変わり、日弁連の方針が変わったためなのだが、他の関係者が「いまさら言われても」となるのはそれはそれで理解できる。弁護士側として取るものは取っているわけだから。司法制度改革全体のパッケージからいいとこ取りするなよと。
それにしてもよかったです。でも、これはとりあえず一息という程度に過ぎません。廃止が1年延期されただけで、来年に困窮者への返済免除などの措置を講じたうえで貸与制に移行する予定は変っていないのです。現実的には来年度予算案が出来る本年末前に、廃止の廃止を勝ち取りたいところ。来年の秋になって反対してもダメですよ。日弁連様、お願いします。
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■参考:04年夏頃の反対運動用に作りました
司法修習給費制度に関する要請
政府は、司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止する方向を固め、今秋の臨時国会に関連法案が提出される予定と伝えられています。これは、質の高い法曹を多数養成し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるという、司法制度改革の理念に完全に逆行するものであり、容認できません。
そもそも、給費制度は修習生の生活を保障することによって修習に専念させ、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹を養成することが目的です。兼職も禁じられ、多くの修習生が給費なしには生活を維持することすら困難です。司法修習生が生活の保障なしに極めて多岐にわたる課題の修習を全うすることは不可能であり、医師養成の分野において研修医を研修に専念させるため国費投入の必要が議論されていることを見ても、時代に逆行するものといわざるを得ません。このような重大な制度変更が、当事者が不在のまま密かに決めらていくことに、私たちは強く反対するものです。 給費制に代えて貸与制度を設け無利子で貸し付けること、裁判官か検察官に任官した場合に返済を免除すること、などが検討されているようですが、すでに法科大学院の高額な学費を負担している修習生にとって、さらに莫大な借金を負うことは容易ではありません。給費制の廃止は、経済的に恵まれた条件にない者を法曹から事実上排除し、人材の多様性を失わせることが明らかです。また、任官者のみ返済を免除するとの発想は、弁護士の公的側面を軽視するものであり、法曹三者間の統一・公平・平等の理念に基づく司法修習を変質させ、法曹の在り方に重大な変質をもたらすことでしょう。
国は、司法制度改革を実現するために必要な財政上の措置を講じることが義務付けられているのであり(司法制度改革推進法6条)、財政的事情から司法修習生の給費制を廃止することはまさに本末転倒であります。司法制度改革の本来の趣旨をふまえ、司法修習生への給費制度を堅持し、法曹養成のあり方を検討するにあたっては、司法大学院生、司法受験生など当事者の意見を十分に踏まえたものとすることを要請します。
司法制度改革推進本部本部長 小泉純一郎 殿
わたしたちは、次のことを求めます。
1、司法修習生への給費制度を堅持すること。
2、法曹養成のあり方を検討するにあたっては、司法大学院生、司法受験生など当事者の意見を踏まえること。
※主体は有志
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司法修習給費制度の廃止について
●司法修正給費制度とは
司法修習生に対する給費制は、現行裁判所法が成立した1947年、法曹一元の理念のもと統一修習制度が開始されたことにともない、司法修習生の経済的自立を保障し、司法修習に専念することを可能にする制度として導入されたものである。現在、年間330~360万円が給与として支払われている。
給費制の在り方を検討すべきとした司法制度改革審議会意見書(01年6月)に対し、財務省の財政制度等審議会が「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(03年6月)の中で給費制の早期廃止を提言するなど圧力を強め、03年7月には司法制度改革推進本部法曹養成検討会において「貸与制への移行という選択肢も含めて柔軟に検討する」との座長とりまとめを行なうに至った。04年6月の検討会で、給費制廃止・貸与制導入の方向で意見をまとめた。
政府は、これを受け新司法試験合格者の修習が始まる06年度から、給費制を廃止し貸与制を導入する方針である。新たに貸与制を導入し、現行の給付額を目安に無利息で貸し付けること。返済は10年程度で、裁判官や検察官など公益性の高い職種についた場合は返済を免除すること等が検討されている。04年9月から(予定)の臨時国会に裁判所法改正案が提出される予定。
司法制度改革推進本部事務局法曹養成検討会(第23回) 平成16年6月15日
【意見の整理】
新たな法曹養成制度の整備に当たり、司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)に代えて、国が司法修習生に対して貸付金を貸与する制度(貸与制)を平成18年度から導入することとする。貸与制の具体的制度設計については、次の点に留意するものとする。
1 貸付額については、司法修習生が修習に専念する義務を負うことを考慮た額とすること。
2 返還は10年程度の年賦等による分割払とし、繰上返還も認めるほか、情に応じて返還猶予を認めるものとすること。
3 返還期限が経過するまでは無利息とすること。
4 具体的な返還免除や返還猶予のあり方については、関係機関の意見をもまえつつ、引き続き検討すること。
5 貸付金に係る国の債権管理、事務処理などについては、アウトソーシンなどによる効率化を図ること。
6 司法修習生に対して旅費(実務修習地と司法研修所との往復など)を支するものとすること。
(少数意見)
川端委員は「給費制は、厳しい専念義務の下での充実した、修習の基盤となり、また公益的活動を支える使命感醸成の効果ももたらしているのであり、経済的事情から法曹への道を断念する志望者が出ることを防ぐためにも、なおこれを堅持すべきである」との少数意見を述べた。
―――――――――――――――――――――――――――――
※法曹養成検討会メンバー(11人)は、田中成明(京大副学長)、井上正(東大教授)、今田幸子(日本労働政策研究・研修機構統括研究員)、加藤新太郎(司法研修所教官・判事)川野辺充子(秋田地方検察庁検事正)、川端和治(弁護士)、木村孟(元東工大学長、大学評価・学位授与機構長)、ダニエル・フット(東大教授)、永井和之(中央大学教授)、牧野和夫(国士舘大学教授)、諸石光熙(住友化学工業専務取締役)
今月1日に給費制を廃止するための裁判所法一部改正が施行され、いったん廃止となった後も、若い修習生や法科大学院生たちが議員会館の前で粘り強くアピールをしていたけど、本当によかった。今年の司法試験合格者の修習が始まる11月27日までに成立すれば、実害は生じずにすむ。
自民党が「民主党内がまとまっていない」という理由で反対したことからも分かるように、実は民主党内もまとまっていない。社民党も国民新党や新党日本に給費制の継続を持ち出したが、同意を得られなかった。法曹は「権利の守り手」であり公共的・公益的役割果たせるよう経済的な保障をしろという主張は、なかなか他の職種からの理解を得られないのだ。公共的・公益的な仕事は法曹だけじゃないだろう、他の公共的・公益的な職業資格を得るためにも給費しろよ、とか言われてしまう。
私自身は給費制度を断固維持すべきという立場だが、正直いって遅すぎると思っていた。給費制度の廃止・貸与制への切り替えはすでに2001年6月の司法制度改革審議会意見書に明記されており、日弁連もパッケージで合意している。司法制度推進委員会には日弁連も入り、法曹三者の合意の下で司法制度改革・法曹養成制度改革に取り組んで来たのだ。給費制廃止を決めた04年6月の司法制度改革推進本部事務局法曹養成検討会には日弁連も入っている(ただし川端弁護士は少数意見を付した)。
当初は新たな法科大学院卒の最初の司法修習生が生まれる06年から貸与制に切り替える予定であったが、法科大学院生や修習生の反対運動もあって今年まで延期されていたもの。日弁連本体がきちんと反対しようとすれば十分な時間があったはずなのだ。
実際には、今年の4月に宇都宮健児弁護士が日弁連会長に就任して執行部の体制が変わり、日弁連の方針が変わったためなのだが、他の関係者が「いまさら言われても」となるのはそれはそれで理解できる。弁護士側として取るものは取っているわけだから。司法制度改革全体のパッケージからいいとこ取りするなよと。
それにしてもよかったです。でも、これはとりあえず一息という程度に過ぎません。廃止が1年延期されただけで、来年に困窮者への返済免除などの措置を講じたうえで貸与制に移行する予定は変っていないのです。現実的には来年度予算案が出来る本年末前に、廃止の廃止を勝ち取りたいところ。来年の秋になって反対してもダメですよ。日弁連様、お願いします。
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■参考:04年夏頃の反対運動用に作りました
司法修習給費制度に関する要請
政府は、司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止する方向を固め、今秋の臨時国会に関連法案が提出される予定と伝えられています。これは、質の高い法曹を多数養成し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるという、司法制度改革の理念に完全に逆行するものであり、容認できません。
そもそも、給費制度は修習生の生活を保障することによって修習に専念させ、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹を養成することが目的です。兼職も禁じられ、多くの修習生が給費なしには生活を維持することすら困難です。司法修習生が生活の保障なしに極めて多岐にわたる課題の修習を全うすることは不可能であり、医師養成の分野において研修医を研修に専念させるため国費投入の必要が議論されていることを見ても、時代に逆行するものといわざるを得ません。このような重大な制度変更が、当事者が不在のまま密かに決めらていくことに、私たちは強く反対するものです。 給費制に代えて貸与制度を設け無利子で貸し付けること、裁判官か検察官に任官した場合に返済を免除すること、などが検討されているようですが、すでに法科大学院の高額な学費を負担している修習生にとって、さらに莫大な借金を負うことは容易ではありません。給費制の廃止は、経済的に恵まれた条件にない者を法曹から事実上排除し、人材の多様性を失わせることが明らかです。また、任官者のみ返済を免除するとの発想は、弁護士の公的側面を軽視するものであり、法曹三者間の統一・公平・平等の理念に基づく司法修習を変質させ、法曹の在り方に重大な変質をもたらすことでしょう。
国は、司法制度改革を実現するために必要な財政上の措置を講じることが義務付けられているのであり(司法制度改革推進法6条)、財政的事情から司法修習生の給費制を廃止することはまさに本末転倒であります。司法制度改革の本来の趣旨をふまえ、司法修習生への給費制度を堅持し、法曹養成のあり方を検討するにあたっては、司法大学院生、司法受験生など当事者の意見を十分に踏まえたものとすることを要請します。
司法制度改革推進本部本部長 小泉純一郎 殿
わたしたちは、次のことを求めます。
1、司法修習生への給費制度を堅持すること。
2、法曹養成のあり方を検討するにあたっては、司法大学院生、司法受験生など当事者の意見を踏まえること。
※主体は有志
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司法修習給費制度の廃止について
●司法修正給費制度とは
司法修習生に対する給費制は、現行裁判所法が成立した1947年、法曹一元の理念のもと統一修習制度が開始されたことにともない、司法修習生の経済的自立を保障し、司法修習に専念することを可能にする制度として導入されたものである。現在、年間330~360万円が給与として支払われている。
給費制の在り方を検討すべきとした司法制度改革審議会意見書(01年6月)に対し、財務省の財政制度等審議会が「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(03年6月)の中で給費制の早期廃止を提言するなど圧力を強め、03年7月には司法制度改革推進本部法曹養成検討会において「貸与制への移行という選択肢も含めて柔軟に検討する」との座長とりまとめを行なうに至った。04年6月の検討会で、給費制廃止・貸与制導入の方向で意見をまとめた。
政府は、これを受け新司法試験合格者の修習が始まる06年度から、給費制を廃止し貸与制を導入する方針である。新たに貸与制を導入し、現行の給付額を目安に無利息で貸し付けること。返済は10年程度で、裁判官や検察官など公益性の高い職種についた場合は返済を免除すること等が検討されている。04年9月から(予定)の臨時国会に裁判所法改正案が提出される予定。
司法制度改革推進本部事務局法曹養成検討会(第23回) 平成16年6月15日
【意見の整理】
新たな法曹養成制度の整備に当たり、司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)に代えて、国が司法修習生に対して貸付金を貸与する制度(貸与制)を平成18年度から導入することとする。貸与制の具体的制度設計については、次の点に留意するものとする。
1 貸付額については、司法修習生が修習に専念する義務を負うことを考慮た額とすること。
2 返還は10年程度の年賦等による分割払とし、繰上返還も認めるほか、情に応じて返還猶予を認めるものとすること。
3 返還期限が経過するまでは無利息とすること。
4 具体的な返還免除や返還猶予のあり方については、関係機関の意見をもまえつつ、引き続き検討すること。
5 貸付金に係る国の債権管理、事務処理などについては、アウトソーシンなどによる効率化を図ること。
6 司法修習生に対して旅費(実務修習地と司法研修所との往復など)を支するものとすること。
(少数意見)
川端委員は「給費制は、厳しい専念義務の下での充実した、修習の基盤となり、また公益的活動を支える使命感醸成の効果ももたらしているのであり、経済的事情から法曹への道を断念する志望者が出ることを防ぐためにも、なおこれを堅持すべきである」との少数意見を述べた。
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※法曹養成検討会メンバー(11人)は、田中成明(京大副学長)、井上正(東大教授)、今田幸子(日本労働政策研究・研修機構統括研究員)、加藤新太郎(司法研修所教官・判事)川野辺充子(秋田地方検察庁検事正)、川端和治(弁護士)、木村孟(元東工大学長、大学評価・学位授与機構長)、ダニエル・フット(東大教授)、永井和之(中央大学教授)、牧野和夫(国士舘大学教授)、諸石光熙(住友化学工業専務取締役)
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