立憲フォーラムが発足2013/04/25

近藤代表と水岡副代表
4月25日、衆議員第2議員会館多目的会議室で「立憲フォーラム」の設立総会が開かれた。 安倍内閣が改憲の発議要件を緩和するために「憲法第96条改正」を主張し参議院選挙争点としようとしていることを立憲主義の危機ととらえた衆参12人の超党派の国会議員が呼びかけたもの。僕も事務局として協力している。

■立憲フォーラム呼びかけ人
・阿部知子・江崎孝・大河原雅子・近藤昭一・篠原孝・武内則男
・辻元清美・那谷屋正義・松野信夫・水岡俊一・吉川元・吉田忠智

設立総会には、賛同する国会議員や、憲法・平和問題に取り組む市民団体、労働組合などから約200人以上が参加。国会議員本人の出席は20名、会員は民主党、社民党、みどりの風、無所属など35名(当日)で発足することとなった。
最初に近藤昭一衆議院議員(民主党)が、立憲フォーラムの設立に至った経過について「総選挙の結果、憲法『改正』に積極的な議員が多くなったと言われ、安倍首相も96条改憲に言及している。これは立憲主義に反する動きであり、これに危惧を抱く議員によって立ち上げられた」と説明した。
設立趣意書や規約、役員体制を確認し、幹事長に就任した辻元清美衆議院議員が、今後の活動方針を提起。勉強会の開催や討論・視察、政策提言、有識者や言論への働きかけを行なっていく、と説明し了承された。
役員体制は、代表に近藤昭一議員、副代表に阿部知子議員、水岡俊一議員、吉田忠智議員、幹事長に辻元清美議員、事務局長に江崎孝議員、事務局次長に那谷屋正義議員などとなった。 

■立憲フォーラム役員体制→

​総会終了後、引き続き記念講演を行なわれた。藤井裕久元財務大臣(民主党顧問)は「安倍首相は偏狭なナショナリズムに陥っている。憲法には長い歴史があり、いまの日本の平和と環境は後世に残すべき財産だ。今の異常な状況下で憲法を変えるべきではない」と語った。同じく講演に立った武村正義元官房長官(元さきがけ代表)も、「96条を変えようとする動きはうさん臭いものを感じる。改憲の発議要件は一般の法律よりも厳しくすべきものだ」と語った。
最後に近藤昭一代表が「今の憲法がなぜ出来たのかを改めて考える必要がある。憲法は国を縛るものであるという立憲主義を守っていくことは、世界の平和に貢献することに繋がる」と、フォーラム結成の意義を訴えた。

立憲フォーラムは、平和フォーラムの議員懇を基板として結成準備が進められ、旧総評系の労組の支援を受ける議員が目立つが、必ずしも護憲派結集というわけではない。憲法を変えないにせよ、変えるにせよ、立憲主義の原則は踏まえなくてはならない、というのが共有点だ。藤井さんも、オレは改憲派だが、と前置きされ、安倍さんがやろうとしているような変え方ではダメだと批判されていた。
変えたいならちゃんと両院の3分の2以上、国民の半分以上が、そうだなーという案を作る努力をするべきだよね。なかなか変えられないから、変えるハードルを下げちゃおうなんてやり方はダメですよ、ということ。

立憲フォーラム設立総会

コンピュータ監視法が成立2011/06/17

 「ウイルス作成罪」の創設を柱とする刑法改正「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が6月17日午前、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。
 過去3回廃案になった共謀罪法案の一部を切り出し、ウイルスの作成や保管自身を処罰対象にする。通称「コンピュータ監視法案」だ。サイバー犯罪条約に関する国内法と位置づけられる。
 定義の曖昧なままコンピュータ・ウイルスの「作成・保管」を処罰対象に加えることで、市民のPCを監視する広範な網が張られることになりかねない問題法案で、市民や関係者から厳しい批判の声が出されていた。
 共謀罪法案は、犯罪に着手する前の「共謀」自体を犯罪とすることが最大の問題だが、その意味ではコンピュータ監視法案も同じ。日本の法律は犯した犯罪を処罰するのが原則だが、この原則が忽せになる。人を殺せば殺人罪。殺そうとして失敗したり途中であきらめれば殺人未遂罪。殺そうとして凶器を用意すれば殺人予備罪になる。しかし殺したいと思ったり、「殺してやろうぜ」と話し合っただけでは犯罪ではない。この「殺してやろうぜ」と話し合うことを、犯罪にしてしまうのが共謀罪。国会審議では「目配せ」や「まばたき」、「うなずき」も暗黙の「共謀」にあたるとされ、厳しい批判にさらされた。
 「コンピュータ監視法案」も、コンピュータ・ウイルスの作成や保管自身を犯罪化する。日々、ウイルスにさらされているだけの一市民としては、ウイルスを作ることを罰して何が問題なのかと普通に思ってしまう。が、これが危うい。法でウイルスは「不正な指令を与える電磁的気録」 と表現されるが、何が不正なのかの定義はあいまいだ。例えば自分で書いたプログラムのできが悪くて予定通り動かず間違った指令を与えるものができたらどうなるのか。犯罪とこじつけられる可能性がありうるのである。不正な指令を出すコンピュータプログラムが、悪意のあるウイルスなのか、失敗作や不良品なのかの線引きは難しい。プログラマーが萎縮し自由な開発ができなくなる恐れも指摘されている。
 さらに問題なのは、作成段階で処罰しようとすれば、市民のコンピュータ情報を幅広く監視する必要が生じることだ。法案の原案は、捜査のためにプロバイダー(通信事業者等)に対して通信履歴を90日間保存することを要請できるとしていた。捜査当局から「要請」されれば事実上断ることは困難で、半強制的に通信履歴を保存させられることとなるだろう。この際、裁判所の令状も対象者への通知も必要が無く、捜査当局の裁量でネットを流通する情報が何でもかんでも収集されていくことにもなりかねないのである。
 また現行法上、差し押さえされるものは実体のあるもの(PCやCD-ROMなど)に限られるが、コンピュータ監視法案では、データを差し押さえるという概念が導入される。通常差押許可状には、場所と物を特定し明示することが求められるが、電気回線で接続された罰のコンピュータに保存されたデータを複写して差し押さえることは、令状主義を潜脱するものだ。
 なお、日弁連等から懸念が表明されたことを受け、若干の修正が行なわれた。修正の内容は、①対象となるウイルスを「作成、提供、供用、保管する行為」を「正当な理由がない」場合と明記したこと、②差し押さえ対象を「当該電子計算機において作成若しくは変更をし、又は変更若しくは消去をすることができることされている」電磁的記録に限定したこと、③通信履歴の保存を要請できる期間を90日→60日に短縮し、この要請を書面で行なうことを明記したことなどである。
 これでは本質的な危険はかわらない。当初、早期の成立は困難とみられていたが、今国会冒頭で法務省提出予定法案のなかでの優先順位が上がり、とんとん拍子で成立に至った。
 現行法上でもウイルスを使用し被害が生じれば器物損壊で罰せられるのであり、この改正を急ぐ必要はなかったのである。社民党はこの改正に反対してきたが、衆参ともに法務委員がいないこともあって、有効な手立てを打つことが出来なかった。残念です。
 今後、正当な理由なくウイルスを作成したり、ばらまいた場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。取得・保管の場合も2年以下の懲役または30万円以下の罰金となる。

米軍従業員不当解雇で申し入れ2010/12/10

防衛相申し入れ
 福島党首と照屋議員が防衛省に申し入れにいくのに同行した。
 海兵隊のキャンプ瑞慶覧で自動車機械工として働いていた安里治さんが、米国人上司のパワハラで不当に解雇された件について。安里さんが、解雇処分を承認した国を相手に解雇無効と解雇後の賃金の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が12月7日にあり、福岡高裁那覇支部(橋本良成裁判長)は「制裁解雇は無効」と断じた。未払い賃金の支払い額は一部減額されたが、一審の那覇地裁判決と同じ原告勝利の判決だ。
 安里さんは、2007年1月の米国人上司に対する発言を口実に同年12月に懲戒解雇された。「ウチクルス」(懲らしめてやる)と言ったことを、「殺すと脅迫した」とされたもので、国側は「殺す」と発言したとして争った。
 今年4月の那覇地裁判決は、発言について「上司に対する不満等を暴力的な言葉を使用した表現にとどまり、解雇事由に当たらない」とし、解雇無効とその間の賃金のほぼ全額の支払いを命じていた。これに対して国側が控訴。沖縄防衛局は「事実認定や判断を認めれば、駐留軍等労働者の円滑な労務管理や基地内職場の秩序維持に重大な影響があり容認できない」としていた。高裁は和解を勧告し、国が在沖米4軍に復職の受け入れを打診したが、「米軍側の受け入れ見込みは厳しい」として和解協議は決裂していた。
 基地従業員の法的な雇用主は日本政府で、米軍施設で米軍の指揮命令を受けて就業する。国家による派遣労働のような仕組みになっている。日本の裁判で解雇無効の判決が確定した場合でも、「諸機関労務協約」を根拠に米軍側が復職を拒むことが出来るとされている。
 そんなアホな。日本で日本人の労働者を働かせているのだから、日本の法制度に従うのは当然じゃないか。勝手な誤解に基づいて不当に労働者の生活を奪って地裁でも高裁でも負けて、なお判決に従う気はないとはどーゆーことか。抑止力がどうことか、普天間や辺野古をどうするといったたいそうなことを言っているわけではない。こういう日常的な関係のなかで米軍の傲慢な本音や、防衛省の属国根性が表わているのである。日米同盟が大事だとか大声でいってる人たちは、こういう当たり前のことをちゃんとさせるべきだとなぜ考えないのか。駐留する国の法律は無視して都合のいいように勝手に振る舞う外国軍隊。それに唯々諾々とヘツらう政府。沖縄の人が怒るのはしごく当然だ。
 照屋議員は北澤防衛相に対して、沖縄の方言では「クルス」というのは懲らしめると言う意味で「殺す」と言うときは「死なす」と言うんだ等々柔らかく説明しつつ、ちゃんと復職させるように厳しく迫った。北澤大臣の答はあいまいな感じ。日米地位協定と労務提供契約の見直しについては、外務省に言えとのこと。
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 基地内での労働力を求める米軍と防衛省が締結した労務提供契約は3種類の協約がある。諸機関労務協約(IHA)、基本労務協約(MLC)、船員契約(MC)の3つである。防衛省が労働者を雇用し、協約に基づいて労務を在日米軍に提供。両者が分担して労務管理を行っている
・基本労務契約は、会計事務職、重車両運転手、フォークリフト運転手、エンジニアリング専門職、警備員、消防士など。
・船員契約は、船長、機関長など。
・諸機関労務協約は販売員、コック、ウェイター、ウェイトレスなど。
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2010年12月10日
防衛大臣
北澤俊美殿
衆議院議員 照屋 寛徳
参議院議員 福島みずほ
参議院議員 山内 徳信

不当解雇された米軍基地従業員の即時復職等に関する要請

 去る12月7日、元在沖米軍基地従業員・安里治氏が米国人上司のパワーハラスメントによる制裁解雇(懲戒解雇)の無効等を求めた訴訟の控訴審判決が福岡高裁那覇支部で、あった。判決は、一審に続いて解雇無効を認定し、「本件制裁解雇には制裁解雇事由が認められず、(中略)解雇権濫用に該当する」と結論づけた。まさしく安里氏の全面勝訴である。
 また、本件控訴審をめぐっては、日本の裁判で解雇無効の判決が確定した場合でも、現行日米地協定とそれに基づく諸機関労務契約(IHA) を根拠に米軍が復職を拒否できることが明らかになった。判決は、この点についても「『安全上の理由による解雇事案』に該当しないことは明らか」 と協約運用のあり方にまで踏み込んでいる。
 安里氏の最大の目的は即時復職である口法的雇用主たる防衛省は、司法判断を真撃に受け止め、下記について適切かっ実効性のある措置を講じられたい。



1. 政府は上告することなく、当該基地従業員@安里治氏の即時復職実現に向けて最大限の努力を尽くすこと
2. 政府は日米地協定を抜本改正し、基地従業員の権利が正当に確保されるよう諸機関労務契約(IHA) をはじめとする3つの労務提供契約を見直すこと。


以上

防衛省の「政治的中立」について2010/11/24

自衛隊政治的中立通達
 防衛省が、政治的な発言をする団体に防衛省や自衛隊がかかわる行事への参加を控えてもらうよう指示する通達を同省幹部や陸海空の幕僚長に出したことが問題になっている。「隊員の政治的中立性の確保について」と題した通達(11月10日付/中江公人事務次官名)は同省や自衛隊が主催したり関連施設で行なわれたりする行事に部外の団体が参加する場合に、①政治的行為をしているとの誤解を招くようなことを行わないよう要請する、②誤解を招く恐れがあるときは団体の参加を控えてもらう――の2点を指示したもの。
 北沢俊美防衛相は、記者会見で「自衛隊法に基づいて対応しているだけで政治的な意図は全くない」、「シビリアンコントロールの機能を心がけている立場からすれば当然のことだ」と述べ撤回する考えがないとした。仙谷由人官房長官は参議院予算委員会で、「暴力装置でもある自衛隊はある種の軍事組織だから、特段の政治的な中立性が確保されなければならない」と答弁した後、暴力措置との表現を「不適当だった」として謝罪したが、通達については「自衛隊の政治的中立を疑わせる発言は慎んでほしいとの要請で、検閲にはならない」と述べ、問題としない考えを示した。
 強大な力を持つ自衛隊組織が政治的中立性を確保し、シビリアンコントロール(文民統制)を徹底する必要があることは当然。しかし、今回問題にしているのは民間人の行為であり、いかに自衛隊施設内とはいえ、これを検閲しようとすることは表現の自由を損なうものと言わざるを得ない。自衛隊法が定める政治的行為の制限は自衛官の行為に対する制限であり、「誤解を招く」として外部の民間人にまで適用範囲を広げようとすることは筋違いだろう。
 2010年2月に陸上自衛隊の一等陸佐が鳩山前首相を揶揄する訓示を行なったことが報道され事実上更迭されるという件があったが、この場合は対象は自衛隊幹部だった。
 今回の通達は、11月3日に航空自衛隊入間基地で開催された航空祭で自衛隊協力団体の代表者が「一刻も早く菅政権をぶっつぶして、昔の自民党政権に戻しましょう。民主党政権では国が持たない」などと発言したのを受けたものとされている。事務次官通達に伴って発出された事務連絡は、発言録を作成し大臣官房文書課に提出するよう求めており、一連の規制は政権批判に対する言論統制、「検閲」の誹りを逃れない。シビリアンコントロールの徹底や自衛隊の政治的中立性の確保の観点からも、そもそもこのような表面的な表現規制に意味があるのかは疑問だ。自民党政権時代にすら行なわなかったこのような表現規制は行なうべきではない。
 例えばドイツでは、軍が一般社会と隔絶し暴走することがないように、兵士を「制服を着た市民」として一般市民と同様の権利・義務を有すべきものと位置づけ、軍隊内においても兵士が自由な人格として責任感ある市民であり続けることを求めている。もちろん軍事組織として限界や制限はあるが、原則として兵士に一般市民と同様の表現の自由を認めることとしている。「内面指導」によって遵法精神を高め、違法な命令に従わない義務を課し、同時に外部の目で軍を監視し兵士の人権や権利を守るための「軍事オンブズマン」の制度を設けている。兵士は政党に所属することもできるし、労働組合も組織されている。
 シビリアンコントロールを徹底するためには表面的なコトバ狩りを部外者にまで拡大し組織を閉ざすのではなく、自衛隊の組織を開き、自衛隊員に市民としての権利を最大限保障し、同時に外部の目で組織を監視する体制の整備こそが求められるのではないだろうか。
 わが国の「シビリアンコントロール(文民統制)」は、事実上防衛省内局の文官(背広組)が自衛隊の実働部隊(制服組)を統制する「文官統制」とも表されることがある。収賄事件で実刑が確定した守屋武昌受刑者(元防衛省事務次官)ら文官が、偏向した思想を公表して更迭された田母神俊雄元航空幕僚長下の部隊等を統制していたのが実態であり、とうてい信頼の出来る体制とは言い難いものだ。
 むしろ2009年には防衛参事官制度が廃止されるなど「文官統制」すら空洞化しているのが現状だ。「シビリアンコントロール」の体制を整備し強化すること自体が極めて重要であることは当然。しかし、それは政治的な発言を表面的に除去することで実現できるとは思えない。

司法修習給費制の廃止1年延期2010/11/18

 司法修習生の給費制廃止を1年延期することが決まった。18日、民主・自民・公明幹事長が合意。先月末に一度決まりかけたが、自民党内がまとまらなかった。「もはやこれまで」というあきらめ感が漂っていたが、滑り込みセーフという感じ。24日にも衆院法務委員会で委員長提案で可決する見込みだ。
 今月1日に給費制を廃止するための裁判所法一部改正が施行され、いったん廃止となった後も、若い修習生や法科大学院生たちが議員会館の前で粘り強くアピールをしていたけど、本当によかった。今年の司法試験合格者の修習が始まる11月27日までに成立すれば、実害は生じずにすむ。
 自民党が「民主党内がまとまっていない」という理由で反対したことからも分かるように、実は民主党内もまとまっていない。社民党も国民新党や新党日本に給費制の継続を持ち出したが、同意を得られなかった。法曹は「権利の守り手」であり公共的・公益的役割果たせるよう経済的な保障をしろという主張は、なかなか他の職種からの理解を得られないのだ。公共的・公益的な仕事は法曹だけじゃないだろう、他の公共的・公益的な職業資格を得るためにも給費しろよ、とか言われてしまう。
 私自身は給費制度を断固維持すべきという立場だが、正直いって遅すぎると思っていた。給費制度の廃止・貸与制への切り替えはすでに2001年6月の司法制度改革審議会意見書に明記されており、日弁連もパッケージで合意している。司法制度推進委員会には日弁連も入り、法曹三者の合意の下で司法制度改革・法曹養成制度改革に取り組んで来たのだ。給費制廃止を決めた04年6月の司法制度改革推進本部事務局法曹養成検討会には日弁連も入っている(ただし川端弁護士は少数意見を付した)。
 当初は新たな法科大学院卒の最初の司法修習生が生まれる06年から貸与制に切り替える予定であったが、法科大学院生や修習生の反対運動もあって今年まで延期されていたもの。日弁連本体がきちんと反対しようとすれば十分な時間があったはずなのだ。
 実際には、今年の4月に宇都宮健児弁護士が日弁連会長に就任して執行部の体制が変わり、日弁連の方針が変わったためなのだが、他の関係者が「いまさら言われても」となるのはそれはそれで理解できる。弁護士側として取るものは取っているわけだから。司法制度改革全体のパッケージからいいとこ取りするなよと。
 それにしてもよかったです。でも、これはとりあえず一息という程度に過ぎません。廃止が1年延期されただけで、来年に困窮者への返済免除などの措置を講じたうえで貸与制に移行する予定は変っていないのです。現実的には来年度予算案が出来る本年末前に、廃止の廃止を勝ち取りたいところ。来年の秋になって反対してもダメですよ。日弁連様、お願いします。
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■参考:04年夏頃の反対運動用に作りました
司法修習給費制度に関する要請

 政府は、司法修習生に給与を支給する制度(給費制)を廃止する方向を固め、今秋の臨時国会に関連法案が提出される予定と伝えられています。これは、質の高い法曹を多数養成し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるという、司法制度改革の理念に完全に逆行するものであり、容認できません。
 そもそも、給費制度は修習生の生活を保障することによって修習に専念させ、高度の専門的能力と職業倫理を兼ね備えた質の高い法曹を養成することが目的です。兼職も禁じられ、多くの修習生が給費なしには生活を維持することすら困難です。司法修習生が生活の保障なしに極めて多岐にわたる課題の修習を全うすることは不可能であり、医師養成の分野において研修医を研修に専念させるため国費投入の必要が議論されていることを見ても、時代に逆行するものといわざるを得ません。このような重大な制度変更が、当事者が不在のまま密かに決めらていくことに、私たちは強く反対するものです。 給費制に代えて貸与制度を設け無利子で貸し付けること、裁判官か検察官に任官した場合に返済を免除すること、などが検討されているようですが、すでに法科大学院の高額な学費を負担している修習生にとって、さらに莫大な借金を負うことは容易ではありません。給費制の廃止は、経済的に恵まれた条件にない者を法曹から事実上排除し、人材の多様性を失わせることが明らかです。また、任官者のみ返済を免除するとの発想は、弁護士の公的側面を軽視するものであり、法曹三者間の統一・公平・平等の理念に基づく司法修習を変質させ、法曹の在り方に重大な変質をもたらすことでしょう。
 国は、司法制度改革を実現するために必要な財政上の措置を講じることが義務付けられているのであり(司法制度改革推進法6条)、財政的事情から司法修習生の給費制を廃止することはまさに本末転倒であります。司法制度改革の本来の趣旨をふまえ、司法修習生への給費制度を堅持し、法曹養成のあり方を検討するにあたっては、司法大学院生、司法受験生など当事者の意見を十分に踏まえたものとすることを要請します。

司法制度改革推進本部本部長 小泉純一郎 殿

わたしたちは、次のことを求めます。
1、司法修習生への給費制度を堅持すること。
2、法曹養成のあり方を検討するにあたっては、司法大学院生、司法受験生など当事者の意見を踏まえること。

※主体は有志
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司法修習給費制度の廃止について

●司法修正給費制度とは

 司法修習生に対する給費制は、現行裁判所法が成立した1947年、法曹一元の理念のもと統一修習制度が開始されたことにともない、司法修習生の経済的自立を保障し、司法修習に専念することを可能にする制度として導入されたものである。現在、年間330~360万円が給与として支払われている。
 給費制の在り方を検討すべきとした司法制度改革審議会意見書(01年6月)に対し、財務省の財政制度等審議会が「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(03年6月)の中で給費制の早期廃止を提言するなど圧力を強め、03年7月には司法制度改革推進本部法曹養成検討会において「貸与制への移行という選択肢も含めて柔軟に検討する」との座長とりまとめを行なうに至った。04年6月の検討会で、給費制廃止・貸与制導入の方向で意見をまとめた。
 政府は、これを受け新司法試験合格者の修習が始まる06年度から、給費制を廃止し貸与制を導入する方針である。新たに貸与制を導入し、現行の給付額を目安に無利息で貸し付けること。返済は10年程度で、裁判官や検察官など公益性の高い職種についた場合は返済を免除すること等が検討されている。04年9月から(予定)の臨時国会に裁判所法改正案が提出される予定。

司法制度改革推進本部事務局法曹養成検討会(第23回)  平成16年6月15日
【意見の整理】


 新たな法曹養成制度の整備に当たり、司法修習生に対して給与を支給する制度(給費制)に代えて、国が司法修習生に対して貸付金を貸与する制度(貸与制)を平成18年度から導入することとする。貸与制の具体的制度設計については、次の点に留意するものとする。
1 貸付額については、司法修習生が修習に専念する義務を負うことを考慮た額とすること。
2 返還は10年程度の年賦等による分割払とし、繰上返還も認めるほか、情に応じて返還猶予を認めるものとすること。
3 返還期限が経過するまでは無利息とすること。
4 具体的な返還免除や返還猶予のあり方については、関係機関の意見をもまえつつ、引き続き検討すること。
5 貸付金に係る国の債権管理、事務処理などについては、アウトソーシンなどによる効率化を図ること。
6 司法修習生に対して旅費(実務修習地と司法研修所との往復など)を支するものとすること。
(少数意見)
 川端委員は「給費制は、厳しい専念義務の下での充実した、修習の基盤となり、また公益的活動を支える使命感醸成の効果ももたらしているのであり、経済的事情から法曹への道を断念する志望者が出ることを防ぐためにも、なおこれを堅持すべきである」との少数意見を述べた。
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※法曹養成検討会メンバー(11人)は、田中成明(京大副学長)、井上正(東大教授)、今田幸子(日本労働政策研究・研修機構統括研究員)、加藤新太郎(司法研修所教官・判事)川野辺充子(秋田地方検察庁検事正)、川端和治(弁護士)、木村孟(元東工大学長、大学評価・学位授与機構長)、ダニエル・フット(東大教授)、永井和之(中央大学教授)、牧野和夫(国士舘大学教授)、諸石光熙(住友化学工業専務取締役)

領土問題は難しい2010/11/10

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突問題(9月7日)、ビデオ公開の問題も加わって複雑化している。そもそも尖閣問題どうすんだ、もっと踏み込んだ方針を示せとせっつかれるが、なかなか一発解決の妙案はない。
 領土問題っていうのは難しい。一歩間違えば、「ナショナリズム」を相互にエスカレートさせてコントロールが効かなくなる。過剰に譲歩したように見えれば批判の的になることがわかっている。しかし典型的なゼロサムゲームだから、強硬一辺倒では落としどころは見つからない。強硬対応の応酬をしていけば行き着く先は戦争だ。
 ちなみに日本政府は尖閣は固有の領土で領土問題は存在しないという立場で、私らもこの立場を支持しているわけなんだけど、「領土問題はない」と言ったって、それを認めない国があるのだから無視して済むわけではない。
 中国漁船衝突の直後の9月15日、ロシアとノルウェーは、バレンツ海・北極海について国境線を画定する合意文書に調印した。お互い譲り合って合意したことで、資源開発に乗り出すことが可能となった。この問題は1970年、旧ソ連時代から40年間にわたる領有権争い。世界にはこうした領有権紛争がゴマンとある。
 例えば有名どころでは、アイルランドをめぐるイギリスとアイルランド。カシミールをめぐる印パ、中国。ゴラン高原をめぐるシリアとイスラエル、ナゴルノ・カラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニア等々。マレーシアサバ州をめぐるフィリピンの主張。ハンス島をめぐるカナダとデンマークの領有主張。ジブラルタルをめぐるイギリスとスペインなど、主要国間で長年続いている紛争も少なくない。
 日本に直接関わるのは尖閣諸島、竹島、千島列島(北方領土)だが、宗教を背景に長年の血で血を洗う抗争を経験してきたパレスチナやアイルランド問題などと比べれば、深刻度はずっと低いはずだ。中でも尖閣諸島は現住民がいないのだから、権益を確保しながら互いの利益を得られる妥協点を探せばよい。ただ、ナショナリズムが加熱した状況下では、冷静な議論ができないので、環境を見定めながら進める必要がある。その意味では、とりあえず棚上げして、議論のタイミングを探ることがよいと思うが、こうした主張は「弱腰」と受け止められるおそれもあるので難しい。もちろん棚上げにするとして永遠ではなく、その間も主張すべきは主張しておく必要があることは当然である。
 いずれにしても、国境を接する国の間で、領有をめぐる争いや議論があることはむしろ当たり前のことだ。こうした意見の相違を長い時間をかけて解決をしてきた。失敗すると泥沼の混乱に至る。僕らが肝に銘じるべきは、とにかく頭を熱くして軍事的な対応に流れるようなことがあってはならないということだ。
 ところで、国内でも深刻な領土問題がたくさん残っている。東京新聞(11月8日朝)によると、江東区と大田区の間の埋め立て地(中央防波堤周辺/現在377ヘクタール・将来989ヘクタール予定)をめぐる領土紛争が激しくなっているらしい。1973年から江東区が建築確認などの行政事務を暫定的に担い「実効支配中」。江東区が「埋め立て工事車両の渋滞や騒音に耐えてきた」と訴えれば、大田区は「のり漁場を放棄した場所」と反論し、互いに「歴史的経緯」を主張しているという。2002年までは品川、港、中央の3区も帰属を主張していた。江東区は9月28日、「歴史的経緯を踏まえれば、本区へ帰属することが当然」とする意見書案を区議会に提出。大田区は翌29日に「大田区に帰属すべきもの」との主張を加えた意見書を区議会に出し、互いに譲る気配はない。かつて、お台場の帰属をめぐっても5区が争い、都の自治紛争調停で解決した経緯もあったっけ。
 蔵王山の県境(山形県と宮城県)が裁判で争われ、30年かけて1990年代半ばにようやく解決した。廃藩置県以来の争いであった十和田湖の青森県と秋田県の争いは2008年8月に137年を経てようやく確定。富士山山頂の帰属をめぐる静岡県の争いはまだ係争中だ。 都内だけでも、東京高速道路部分の中央区・千代田区・港区、荒川河口部の江東区・江戸川区、鳥島をはじめ10カ所程の区境は未確定だ。時に、厳しいやりとりもあるが、それなりにコントロールしながら少しずつ合意点を見いだしたり、当面棚上げのまま現実的に対処したりしているのである。
 自治体間の境界と、国と国の境界では話が違うが、権力や権限の境界を引くというのはなかなか難しい作業だということでは同じ。焦らず、拙速に短絡的な手段に流れることなく、ゆったり構えて、最適の解を見つけていくしかないと思うのだが…。

尖閣諸島問題についてメモ(9月24日)2010/09/24

                                2010年9月24日/政審事務局

             尖閣諸島をめぐる問題について(メモ)

1、9月7日、尖閣諸島・久場島の北西約15㎞の日本領海内で、中国人船長と中国人船員14人が乗り組んだ中国漁船(166トン)と追跡中の海上保安庁巡視船「みずき」(180トン)が衝突した。海上保安庁は8日未明、同漁船船長を公務執行妨害罪で逮捕した。海上保安庁巡視船が、同諸島周辺の領海内で違法操業中を行なっていた中国漁船に対し、停船を命じつつ追跡を行なった際に、同漁船を巡視船に衝突させ海上保安官の職務の執行を妨害した容疑である。

2、海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突の詳細についてはわかっていない。日本政府は、中国漁船が巡視船に衝突してきたとして、日本の法令に基づいて厳正に対処していくとしてきた。一方、中国側では巡視船が中国漁船に衝突したとして中国漁船を被害者とする報道が行なわれている。この海域の領有権を主張する中国にとっては、ここで日本の国内法を執行すること自体が受け入れられないものと考えられる。なお、衝突時のビデオは公開されていない。

3、尖閣諸島周辺の海域は中国や台湾の漁船などの操業が相次いでいた。海上保安庁によると、多い日では約270隻を確認。1日に70隻程度が領海内に侵入していた日もあるという。事件が起きた7日も周辺で約160隻の中国船による操業を確認、うち約30隻は領海侵犯していたとのこと。

4、同漁船船長の拘留に対して中国側は強く反発し、閣僚級交流の停止などを打ち出した。日本青年上海万博訪問団の受け入れ延期、中国の健康食品販売企業宝健の1万人訪日旅行のキャンセルなど民間交流にも大きな影響が生じている。ハイテク製品の製造に必要なレアアースの輸出制限などによって、日本の製造業に影響を及ぶおそれも懸念された。河北省石家荘市では違法に軍事施設を撮影したとして日本人4人が拘束される事件も起きた。

5、日本政府は「(尖閣諸島は)歴史的に一貫してわが国の領土たる南西諸島の一部を構成している」としており領土問題ではないとしている。中国側は「14世紀に最も早くこの島々を発見し、最も早く命名したことで、いち早くその主権を得て実効支配しており、国際法上、争う余地のない主権を有している」としている。1978年に日中平和友好条約が締結された際は「棚上げ」とされた。

6、9月24日、那覇地検は同船長を処分保留で釈放すると発表した。鈴木亨次席検事は記者会見で「我が国国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上身柄の拘束を継続して捜査を続けることは相当ではないと判断した」と述べた。仙谷由人官房長官は「捜査上の判断」として「政治的な配慮」を否定し、柳田稔法相は「指揮権を行使した事実はない」としている。

7、社民党は尖閣諸島の領有問題について日本政府の立場を支持しているが、同時に今回の事件に対しては柔軟な対応を求めてきた。このまま船長を起訴していれば、日中間の緊張は制御不能なレベルにまで高まっていた可能性があり、今回の釈放はやむを得ないものだったと考えている。しかし、本来、事態をこのように拡大し長期化させるべきではなく、逮捕したこと判断自体の是非も含め菅政権の責任は大きいのではないか。また検察に国益や外交に関わる問題を判断させるべきではなく、政府と外交当局が責任を持って判断をすべきであった。

8、領有権について争えば、双方とも引くに引けない状況となり、偏狭なナショナリズムを高めることにも繋がりやすい。互いに妥協できない困難な課題を前面に争うことは両国にとって何の利益にもならない。双方が冷静に実務的に処理をするよう心がけるべきである。日本にとって中国は好むと好まざるとに関わらず付き合っていかなくてはならない巨大な隣国である。日中の協力はアジアと世界に平和と安定、発展と利益をもたらす最も重要な二国間関係の一つ。今回の事件に目を奪われ、長年にわたって育んできた成果を失ってはならないと考える。

9、9月15日、ロシアとノルウェーは、旧ソ連時代から40年間にわたって領有権を争ってきたバレンツ海・北極海について、ほぼ2分する形で国境線を画定する合意文書に調印した。両国の経済水域がまたがる同海域には、石油と天然ガスが豊富に埋蔵されていると推定されており、1970年から国境線をめぐる対立が続いていた。今回の合意により、両国が資源開発に乗り出すことが可能となる。日中間の長年の懸案であった東シナ海のガス田の開発についても7月末に日中の交渉がはじまったばかりだ(今回の事件で中断)。領有をめぐって対立したまま一方的に資源開発を進めることは難しい。相互に妥協しながら漁業資源を分け合い、埋蔵資源の開発をすすめる枠組みを目指すことは、双方の利益に叶う。偏狭なナショナリズムを排しながら、冷静な話し合いをすすめるべきである。

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参考■日本政府の立場
尖閣諸島の領有権についての基本見解

 尖閣諸島は、1885年以降政府が沖縄県当局を通ずる等の方法により再三にわたり現地調査を行ない、単にこれが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重確認の上、1895年1月14日に現地に標杭を建設する旨の閣議決定を行なって正式にわが国の領土に編入することとしたものです。
 同諸島は爾来歴史的に一貫してわが国の領土たる南西諸島の一部を構成しており、1895年5月発効の下関条約第2条に基づきわが国が清国より割譲を受けた台湾及び澎湖諸島には含まれていません。
 従って、サン・フランシスコ平和条約においても、尖閣諸島は、同条約第2条に基づきわが国が放棄した領土のうちには含まれず、第3条に基づき南西諸島の一部としてアメリカ合衆国の施政下に置かれ、1971年6月17日署名の琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(沖縄返還協定)によりわが国に施政権が返還された地域の中に含まれています。以上の事実は、わが国の領土としての尖閣諸島の地位を何よりも明瞭に示すものです。
 なお、中国が尖閣諸島を台湾の一部と考えていなかったことは、サン・フランシスコ平和条約第3条に基づき米国の施政下に置かれた地域に同諸島が含まれている事実に対し従来何等異議を唱えなかったことからも明らかであり、中華人民共和国政府の場合も台湾当局の場合も1970年後半東シナ海大陸棚の石油開発の動きが表面化するに及びはじめて尖閣諸島の領有権を問題とするに至ったものです。
 また、従来中華人民共和国政府及び台湾当局がいわゆる歴史的、地理的ないし地質的根拠等として挙げている諸点はいずれも尖閣諸島に対する中国の領有権の主張を裏付けるに足る国際法上有効な論拠とはいえません。
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参考■中国側の立場
評論・日本政府による釣魚島灯台「接収管理」

中国が釣魚島(本文中、釣魚島とその周辺の島々を「釣魚島」と略称する)に国際法上、争う余地のない主権を有していることは、国内外の大量の史料が実証している。中国は14世紀に最も早くこの島々を発見し、最も早く命名したことで、いち早くその主権を得て実効支配した。明代の1562年に作られた「籌海図編」の沿岸防衛範囲の中に「釣魚嶼」「黄尾山」「赤嶼」が入っている。1863年の「皇清中外一統輿図」は「釣魚嶼諸島」を大清国の領土であると示し、台湾に付属する島として管轄していた。日本は1895年1月、甲午戦争(日清戦争)に乗じた閣議決定によって釣魚島を占領した。同年4月の馬関条約(下関条約)によって釣魚島は「台湾と付属の島々」の一部として日本に割譲させられた。第二次世界大戦後、日本はポツダム宣言によって、占領していた釣魚島を中国へ返還しなければならなくなった。しかし、米国は琉球諸島を信託統治する際、釣魚島を密かに同諸島の一部としてしまった。1971年に沖縄が日本へ「返還」され、釣魚島は今なお日本の統治下に置かれている。
日本は1970年代以降、釣魚島の主権を主張するための法的根拠を求め始めた。日本の外務省は1971年3月に「尖閣諸島の領有権についての基本見解」を発表した。同見解は(1)日本が1895年に釣魚島を占領した時「主のいない土地」だった(2)釣魚島は歴史上、日本の南西諸島に属しており、馬関条約(下関条約)で割譲された範囲に含まれていない(3)日本が戦後放棄するべき領土に属していない――などと主張している。だが、これらの主張は根拠があいまいだ。なぜなら1895年に釣魚島は中国の実効支配化にあり、島が「無人島」であることが必ずしも「主のいない土地」とは限らない。そのため日本の「主のいない土地は先に支配した者のもの」という論法は成り立たない。
日本はここ数年来「実効支配」によって主権を得ようと企図している。一つは、釣魚島は「私有地」であると主張し、右翼団体が島に上陸して建てた灯台を容認するなど主権行為を示している。二つ目に、海上防衛を強化し、中国漁船や釣魚島に接近しようとする「保釣」(釣魚島防衛)団体の船を追い払っている。三つ目に、日本政府は2002年4月に釣魚島を民間から「借り上げ」て、先日また灯台の「接収管理」を宣言した。その目的は言うまでもなく「実効支配」を強化して「時効取得」を達成しようとするものだ。
近代的な国際法において、征服によって強制的に領土を占領することは不法なものであり、「実効支配」がどれほど続こうとも初めから無効だ。「時効取得」は必ず平和で争うことがなく、長期的に持続した「実効支配」が前提でなければならない。中国政府は釣魚島に対する主権的立場を一貫して堅持し、日本に何度も外交ルートを通じた抗議を行い、釣魚島の主権を争う姿勢を一貫して表明してきた。このため、日本政府が灯台を「接収管理」する行為は徒労に終わるだろう。
1982年の国連海洋法条約の規定で、島(岩礁を除く)は大陸棚と200カイリの排他的経済水域を持つようになった。そこで日本は島の領有権を争うことによって海洋領土を広げる国家戦略を確立した。中国と釣魚島の領有権を争うことから始まり、韓国とは独島(日本名・竹島)を争い、ロシアとは北方四島(ロシア名・南クリル諸島)をめぐって綱引きしている。日本の海洋産業研究会の調査レポートによると、これら領有権を争っている島々は日本に200万平方キロメートルの排他的経済水域をもたらすという。
今回、日本政府が灯台をいわゆる「接収管理」した行動は、中国の東中国海における海底油田開発への報復姿勢を暗にほのめかしている。これは両国関係の悪化をいとわず、釣魚島を基点として東中国海の大陸棚と排他的経済水域を奪い取ろうとするものだ。日本の学者によると、釣魚島は日本に20万平方キロメートル以上の海域をもたらすとともに、東中国海大陸棚の石油・天然ガス資源の半分を獲得できるという。ここ数年来、日本はコストをいとわず海底地質探査を行い、2009年の国連大陸棚委員会に大陸棚の調査データを提出する考えだ。
このほか、日本はさらに「釣魚島をめぐる中日武力衝突論」をでっち上げ、「南西諸島有事対応方針」を打ち出し、釣魚島の軍事戦略上の地位を強化した。日本が今回灯台をいわゆる「接収管理」して緊迫した情勢を造り上げた意図は、「中国脅威論」を再び蒸し返し、その軍備拡張のため南西海域の防衛強化にもっともらしい理由を提供したのだ。同時に日本は釣魚島を利用して軍事基地を築こうと考えている。中国を押さえ込み、台湾海峡情勢に介入する伏線を埋めるためである。
これまで述べたように、日本政府による釣魚島灯台のいわゆる「接収管理」は国際法に矛盾する。釣魚島の主権は国際法によって判定されるべきである。領有権を争っている領土に一方的に主権を行使しても法的効果は生まない。釣魚島の主権帰属およびこれと密接にかかわる東中国海大陸棚と排他的経済水域の境界線確定問題について、中日両国は国際法に基づいて交渉で平和的に解決するか、あるいは国際司法裁判所か国際仲裁機関に訴えて解決すべきである。

※人民日報はが掲載した中国社会科学院日本研究所の孫伶伶博士の論文「人民網日本語版」2005年2月23日から
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消費税反対と左翼2010/09/10

 消費税の議論になると思い出すのは、15年ほど前にデンマークのアンデルセン福祉大臣(当時)の取材をしたときのことだ。当時、『月刊社会党』の編集者だった私は、たまたま来日したアンデルセン大臣の日程を確保したからインタビュー記事をつくれと半坂編集長(当時)に言われて、五島議員との対談をセットした。
 もともとぺーぺーの自分が現職の外国閣僚と直接話すつもりはなかったんだけど、たまたま時間が空いて話す機会ができた。社交辞令の後で、いきなり聞かれたのは、「社会党はなぜ消費税に反対するのか?」と。
 私はしどろもどろで、「導入の経緯が」とか「逆進性が」とか答えたわけだけど、説得力のある説明は出来なかった。もう、うろ覚えだけど概ね次のようなことを言われたのです。
 「世界中どこに行っても税金を減らせというのは右、増やせというのは左。左翼ならちゃんと税金を取って、きちんと還元することを目指すのが当然だ。」
 「どこからどう税金をとるかは国による政策も問われるが、自由な社会や自由な貿易を守ることを前提にすれば、所得への累進課税や法人課税の強化には限度がある。」
 「軍事費や無駄な経費を減らすのは当然だがこれも限界がある。最終的に国民に十分は福祉や教育を行き渡らせるには消費課税がどうしても必要になる。逆進性などの問題は緩和する様々な対策が行なわれている。」
 「多くの国で様々な経験が蓄積されており、福祉国家のためには消費税は避けて通れないことは十分理解されているはずだ。現に左翼が強い国ほど消費税率は高い傾向がある。」
 「日本の消費税の導入の経緯は問題があったのかも知れないが、社会党はすでに政権を担うことになったのだから過去のことばかり言っていられない。左翼なら正面から増税を語るべきで、社会党は政権党(当時)として、増税をして同時にその成果を国民が理解できるように還元しなくてはならない。」
 当時の私としてはこれにぜんぜん反論ができなかったんだなぁ。村山政権初期のことなんだけど、この頃はまだ89年の土井ブーム・反消費税で「山が動いた」記憶が新しかったし、村山さんが総理になったんだから消費税率アップは認められないよね、って雰囲気だった。まぁ、私も普通に反対な感じでいたのだけど、これに社会民主主義の本家からダメだし食らったわけです。
 それで、いろいろ勉強したり考えたりして、私は消費税増税論者になったのです。もちろん単に今のまま増税するのではなく、いろいろな条件がありますが。いまの消費税の仕組みには問題が多いし、法人税や高額所得者への減税の穴埋めに消費税収をつかうような現状は問題。所得の再分配機能を弱める形での消費税率アップは認められない。でも、所得や資産や相続にちゃんと課税したうえで、消費税がきちんと福祉や教育の向上に使われるのであれば、増税してもいいんじゃないか。
 現状の消費税は批判してもいいけど、むしろ大胆な消費課税も含めて国民生活向上に繋がるような税制を積極的に提案していくべきではないかという感じでいるわけです。
 いまだに党内は消費税反対の主張が多勢だし、「左翼」的勢力全体を見ても反対論が根強い状況を考えれば、消費税も含めて増税ちゃんとしましょうというコンセンサスを作るのはなかなか容難しいでしょうが。
 ちなみに私、税制は担当じゃないので、これは単なる個人的な意見にすぎません。いまや目にすることは難しいでしょうから、そのときにまとめた記事を参考までに掲載します。お二方の対談を元にまとめたものです。
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(月刊社会党95年1月号)

「北欧福祉社会と税制――デンマーク元社会大臣との対話」

                          B・R・アンデルセン・五島正規

社民党がつくった福祉社会
五島正規 今日はデンマークのアンデルセンさんを迎えて、福祉を中心に、政治的な面も含めておうかがいしたいと思います。
 いまの北欧では社会民主党と保守党の間で福祉の問題に関する大きな対立はないと聞いています。こうした状態に至るまでには福祉をめぐっての対立もあったのでしょうか。
ベント・ロル・アンデルセン 北欧だけでなくほかの国から見てもそうですが、こういう福祉社会は社会民主党がつくった、というふうに考えられています。
 党の政策綱領などを見ると、それぞれの政策に違いはあります。しかし、重要な福祉関係の法律は過半数を大きく超える賛成で成立しており、実際にはそれほどの差はないわけです。政策の違いは立場をはっきりさせるために言っているという面があって、実質的にはニュアンス程度の微妙な違いだけです。
 例えば福祉予算を削らなくてはならない場合、提案する額は保守系のほうが多く、社民系のほうが少ない。高齢者福祉のある部分を民営化しようという議論は保守党のほうに強くて、社会的・公的なものでよいという意見は社民党に強い。そういう違いはありますが、サービスが必要という点は同じです。
 福祉国家をやめようと主張している政党はどこもありません。もう少し自由な分野を大きくしようというのが保守系で、それではだめだというのが社民党の主張です。これは議論のための議論とも言えます。保守系が節約を言う理由も、福祉国家を維持するために放漫ではいけないというものです。
 われわれの福祉政策は社会主義のイデオロギーでつくられているわけではありません。どちらかというと社会的な連帯が福祉国家の理念であって、すべてを社会化していくという社会主義のイデオロギーではないのです。
五島 日本でも高齢化社会を迎えるなかで、福祉の水準を上げていかなければいけないという点ではコンセンサスがあります。
 ただ北欧型の福祉については、日本では二つの意見が出されています。一つは、北欧型福祉モデルにはカネがかかり、それを支える経済の活力が失われてしまうのではないかという意見。もう一つは、これからの福祉では「選択」が重要なウェートを持つので、より選択肢の広いシステムを考えるためには、北欧型のモデルよりも民間に依存する仕組みにしたほうがよいのではないかという意見です。その点についてどのようにお考えでしょうか。
アンデルセン 北欧型の福祉社会だと経済の活力が失われるという議論が正しいなら、公的セクターの多い国はみな経済が低迷していなければなりません。逆に公的セクターが小さい国はみなよいのか。財政は黒字なのか、貿易収支はどうか、失業率や一人あたりGNPはどのくらいなのか。OECDのデータを調べればすぐわかりますが、実際に相関性はありません。一般的に公的セクターが大きいヨーロッパが、より公的セクターが小さいアメリカや日本よりも経済的に悪いという実態はありません。
 日本の経済状態はよくても、アメリカはずっと悪かった。同じように公的セクターが小さい国でも、経済のいい国と悪い国があるわけです。ヨーロッパではデンマークは経済的に一番強い国です。デンマーク、スウェーデン、オランダ、フランスなど公的セクターの強い国は、スウェーデンを除いてみんな経済は順調です。先進国で経済状況がいい国は、概して公的セクターが大きい国と言えるのではないでしょうか。
 もう一つ重要なことは、女性がどれくらい就労しているかということです。これとパブリック・セクターの大きさは相関性があります。女性が就労すればGNPもふくらむし生産にもかかわります。同時に税金も払うことになりますから、公的セクターを大きくすることもできるわけです。
 二番目の、選択性の問題ですが、一般的な商品ならいろいろな店があれば質や価格で自分で選べるということはたしかに言えます。しかし、これは公的セクターでもできないことではありません。例えば公的義務教育でも学校の選択ができます。地域だけでなく、運営のやり方で選択することもできます。また保育園や病院も選択できます。公的セクターだからできないとは一概に言えません。それが公的セクター同士の競争にもつながっていくわけです。

大家族主義のメンタリティー
五島
 よくわかりました。  日本の場合、高齢化がきわめて遅れてしかも急激に起こってきたということが特徴です。そのためとくにお年寄りのメンタリティーの面でいろいろな問題が起こっています。北欧で高齢者が別世帯という社会習慣はいつごろからあったのですか。日本では大家族主義が長く続いて、そのなかでつくられたメンタリティーがいまだに強く残っています。そのへんの違いはどうでしょうか。
アンデルセン アジアでは一般的に大家族制の歴史が長いですが、北欧は親子が別居するのが伝統です。アジアの大家族制の理由を説明をするのが難しいように、デンマークでなぜ別居するのかを説明するのも難しい。かつて多くの国に大家族が中心の時期があったし、いまでもあるわけですが、大家族の社会の特徴は農業が中心的な産業であるということです。生産の場が農村地域から都市に移ってきて、経済の中心が二次、三次産業に移っていくときに、子どもが外に出ていきます。デンマークでは一九世紀の終わりにそれが起こり、そのころから別居が当たり前になってきました。
 日本ではまだ大家族主義の伝統があると言われていますが、どれだけこれが続けられるのか、私にはわかりません。
五島 日本も農村人口が人口の五〇%あったのは五〇年も前のことで、最近では第三次産業の人口のほうが圧倒的に多いという状態にまできています。それに加えて一極集中的な都市化が非常に進んでいて、現実には親子同居世帯は少ない。にもかかわらず、メンタリティーとしては家族主義が強く残っていて、親のほうにも子どものほうにも一緒に暮らさないことが不幸であるかのような感情が残っている。このへんが単に習慣の問題なのか、別の問題があるのか、非常に難しい問題だと思います。
 こういう国民的なメンタリティーが、福祉をパブリック・セクターで処理することに対する反対意見の一つに使われることが往々にしてあるわけです。
アンデルセン まったく同感です。南ヨーロッパにもそういうところがまだ残っています。大家族主義はうまく機能しているうちはよいのですが、うまくいかなくなったときには監獄のようになってしまいます。そのときは何かをしないと、家族機能そのものが維持できなくなります。
五島 いまの日本はまさにそういう状態にあります。しかも保守党の有力な政治家のなかには、「親孝行」といったものを軸に高齢化社会に対応する、それを軸にして税制や相続問題を考えようという人がいます。そういう政治的な力がまだ存在していることは非常に不幸です。
アンデルセン こうした議論はイデオロギーのレベルの話が多いようです。しかし、本当に変えるエネルギーになるのは人々のインタレスト、利害がポイントです。いまのところ男性の意見が力をもっていて、その限りでその価値観が表に出ています。しかし、それが通ると、高齢者自身や女性たちが苦労することになるわけです。高齢者自身や実際に介護にかかわる人が力をもたないと、制度は変わりません。とくに女性のインタレストがどれだけ表に出るかが非常に重要です。
五島 日本の場合は高齢者自身がそれを求めている面があります。
 もう一つ。経済的な問題ですが、日本では所得のフローの部分はそれなりに公平化してきていますが、資産に関しては非常に大きな格差が存在しています。世代間で見ると六五歳以上の方と、三〇歳代、四〇歳代の人の資産格差が大きい。高齢者の持っている資産をどう社会化して、福祉国家をつくるのかが大きな課題になります。デンマークでもそういう悩みはあったのでしょうか。
アンデルセン 高齢者によっていろいろ考え方は違うでしょう。例えば家を持っていても、息子が面倒を見てくれれば資産として全部渡す人もいます。家族間で給付と負担の分配をすると考える人もいます。しかし、そのコストを実際に払うのはたいていお嫁さんになるわけですが、おそらくその影響力は小さいでしょう。あるいはそれほど面倒をみない。共働きだったりすると、日中は独居で寝たきりになっている。資産を同じように持っていても、その老人にとっては公的セクターのほうがいいわけです。
 高齢者自身の状況や興味でどちらかがうまく機能すれば、本人にとってはいいのですが、なにも対策をとらないで最後のケースのようになると悲惨です。子どもは共働きで日中独居、寝たきりになると最後は入院してなかなか家にも戻れない。なにも手を出さなければそういう人がどんどん増えてきます。
 ですから、高齢者自身が本当に昔の家族的な制度を求めているのか、どういう状況を想定しているかによっても違うでしょう。改革があるときには価値観のぶつかりあいが当然あるわけで、力のあるほうに傾いていくわけです。

安すぎる固定資産税
五島
 お年寄りの資産の社会化に関してはどうですか。
アンデルセン 私は八九年から毎年、日本に来ているのですが、日本の固定資産税は安すぎる。どうしてもっと高くしないのか、経済学者として理解できません。
 借金をしてでも買った方がいいという事態が起こると、それがバブルだったわけですが、それがある日崩れれば、貸した銀行はパニックになるはずです。大蔵省があまり表に出ないようにしているのでしょう。早い時期から適正な固定資産税がかかっていれば、こういうことは起こらなかったのです。
 いますぐやったらマーケットが崩れてしまいますから、問題の解決にはなりません。資産価値が下がれば、高齢者の相対的な力も下がってしまいます。
五島 デンマークでは地方自治体の税収は所得税と固定資産税が中心と聞きましたが、その比率はどのぐらいですか。
アンデルセン それは市町村で決められます。社民党系の自治体は固定資産税が比較的高く、自由党系(昔の農民党系)のところは低い。だいたい歳入の一〇分の一ぐらいが固定資産税です。コペンハーゲンの西にあるアルバースルンという都市は社民党ですけれども、もっと高い固定資産税を決めています。
 地方交付税はだいたい一〇%ぐらいですから、いまは九割が自主財源です。かつては地方交付税が大きかったのを、だんだん自前の分を増やしてきたわけです。
五島 法人の課税はどうなっていますか。
アンデルセン 法人税は利益の三四%です。
五島 法人に対しても固定資産税があるのですか。
アンデルセン たいした額ではありません。
五島 個人も固定資産税は市ですか。
アンデルセン 固定資産税は市と県にいき、国にはいきません。基本的には市町村レベルにいく分が一番多いのです。
五島 個人の住宅の固定資産税は高いのですか。
アンデルセン 固定資産税は土地の評価額と建物の評価額で合計します。建物よりも土地のほうにかかるけれども、その土地代が安いのです。
五島 法人の固定資産税率も個人の固定資産税率も一緒ですか。
アンデルセン 法人の場合には、土地と建物のいわゆる固定資産税が市で、利益の三四%が国です。税率は個人の場合も法人の場合も同じです。商業価格の一%以下です。
五島 日本の場合、標準課税価格はマーケット価格ではありません。
アンデルセン 毎年評価を変えるのですが、下がった場合にはなかなかそれと一緒に下がらず、時間差が出てきます。

見えにくい消費税
五島
 デンマークは消費税が二五%ぐらいで、かなり高い。間接税に対する国民の意見はどうですか。
 もう一つ、福祉とか医療、教育といったパブリック・セクターから提供されるものは非課税なのですか。
アンデルセン デンマークでは消費税に関してより、所得税に関する議論の方がはるかに多いのです。所得税は可視性があるが、消費税は見えにくい。経済論で言うと、消費税が上がるとその分だけ為替レートが下がる。例えば日本の消費税を二五%にすると円の交換価値が下がります。為替が下がると、その分だけ国内産のほうが安くなる。海外から来たものが高くなりますから。ドイツでつくっている車と日本でつくっている車と、もし同じコストがかかったとすると、これに二五%の消費税をかけると、日本で売る車がドイツの車よりも高くなるはずが、実際にはなりません。国際的に動いているものは不可視的です。デンマークの消費者は、どれだけ消費税が入っているかを考えないで物を買っている。直接税の場合には背番号制もありますし、これだけ所得があって、これだけの税というのがはっきり見えます。ですから消費税に関する不満は出てきません。
 二つ目の問題ですが、公的セクターには消費税はかかりませんが、民間と公的セクターが競争している分野には消費税がかかります。例えば学校における掃除です。学校そのものは市の持ち物ですから、市が公務員として掃除婦を雇ってもいいし、掃除会社からサービスを買ってもいい。安いほうがいい。民間企業と行政サービスとの対等・平等な競争ですから、自分で公務員として雇ってやる場合にも消費税をつけなければいけません。
五島 その場合、利用者に消費税が課税されないのはわかりますが、各段階では付加価値税がかかっているはずです。インボイスなどによるゼロ%課税を言っておられるのか、あるいは非課税ということなのでしょうか。
アンデルセン ものを売ればその額に対して消費税を払う。しかし、その材料はほかの会社から買ったわけで消費税が含まていますから、税務局は買った額の二五%を返す。実際には付加価値したものの二五%だけを払うわけです。 五島 私の聞きたいのは、パブリック・セクターに対する課税の仕組みです。例えば病院でベッドを買うと、そのベッドに対して消費税を払うのですか。それともパブリック・セクターの病院ならベッドの分の消費税を払わなくていいのですか。
アンデルセン 付加価値にはつけませんが、買ったものに対してはかかります。ベットを売る会社が消費税を国に払い、それを加えて売りますから、それを買い手はそのまま払います。管理上の簡易さのために、公的なところに売るときと民間に売ったときの区別をしないで済むように、一たん全部払うのです。
五島 プライベートな病院で治療を受けると、その消費税は患者さんに転嫁されるのですね。
アンデルセン そうです。物を買ったら必ず払うわけですから。
五島 そうするとプライベート・ホスピタルを利用するよりは、パブリック・ホスピタルを利用したほうが患者さんにとっては有利ですよね。パブリック・セクターで提供されるサービスが、民間と競合しているのはあまりないんですか。
アンデルセン 公共の病院でもシーツの洗濯や、薬局などは民間を使うこともできます。薬局を行政でつくってもいい。マーメイドという大きな民間病院が今年つぶれてしまいましたが、ハムレットという心臓手術をやる病院などが残っています。
 民間病院でもいろいろなものを買って、サービスをつけて治療をするわけですが、消費税は全体の価格に対して払い、買ったものに含まれていた分は返してもらう。公立の病院の場合には、薬なりベッドなり同じものを買ったとしても、それに対しての消費税を払う。なにも売らないから、収入はない。二五%全額払わなければならない。民間は経費になる。サービスを提供したプラス・アルファのところだけの二五%になるのです。
五島 パブリックセクターの部分が大きいということで、税制などにも配慮されていることはよくわかりました。日本の場合、プライベート・セクターとパブリック・セクターが混在していますので、大変参考になりました。
アンデルセン 公的セクターか民間かというときに、公的セクターがいつもいいのだ、あるいは民間のほうがいいのだという議論はなるべく避けたほうがいい。民間のほうがいい領域もたくさんあるし、民間では全然対応できない分野もある。高齢者福祉はそういう分野で、民間で対応することは不可能です。医療の大きな部分もそうです。OECDの資料を見ても、民間でやっているアメリカの医療は非常に高くて、デンマークのほうがむしろ安いのです。

消費税と老人福祉の財源
五島
 日本では、パブリックに介護保険をつくるかどうかの議論が始まっています。一方で民間の介護保険も発足している。介護の問題についてもパブリックの部分とプライベートの部分が混合した場合、非常に複雑な問題を生み出してくるのではないかと心配しています。
アンデルセン 介護保険みたいなものをつくると、すべて問題が起こるごとに保険でつくらなければならなくなります。どうしても保険制度でやるなら、いま存在している医療保険のなかに組み込んで介護をふくらませる方がいいと思います。それならパーセントを変えるだけでいい。
 そうでなければ、消費税の一部を市町村に配ってやった方がいい。保険制度をつくってしまうと、それを維持すること自体が目的になってしまう。
五島 老人保険については拠出制度もあるわけですから、老人保険のなかに含めることが一番現実的だと思います。
伊東敬文 地方自治体に消費税を渡して老人福祉に使ってもらえば、例えば〇・五%で一兆円です。人口六五歳以上一人当たり一〇万円ぐらい配れます。
五島 バブルで税収が一番伸びているときに、消費税が導入されたので、国民に強いアレルギーがあるのです。
伊東 今度税率を上げるなら、市町村にいく〇・五%なら〇・五%が見える形でやる。老人福祉計画もつくったのだから、それを実現する自主財源とする。厚生省ではなく、むしろ自治省との連携で起債も含めてやれば、〇・五%でもかなりの額になります。いま厚生省が要求しているのは三〇〇〇億円ですから、使いきれませんよ。
五島 〇・五%で一兆二〇〇〇億ほどですから。たしかに税が国民に見えるということが大事ですね。老人保険に消費税の〇・五%を注ぎ込むという方法もありますね。ただ「消費税反対!」と言ってきた経過があるので…。
伊東 だから堂々と言えばよいのです。消費税が一番いい。
五島 消費税が産業政策などに使われるのではないかという不安があるのです。
伊東 ある程度のリターンがあれば上げられますよ。一度はそれをやっておかないと、減税で全部を使ってしまったらアウトですよ。
五島 いろいろ参考になるお話をうかがいました。どうもありがとうございました。
(※コペンハーゲン大学社会医学研究所の伊東敬文先生に通訳をお願いし、議論にもご参加いただきました。1994年10月27日)

法務省政府三役が人権侵害救済法案を受け入れ2010/06/22

新たな人権救済機関の設置について(中間報告)
 6月22日、法務省政府三役は「新たな人権救済機関の設置について(中間報告)」を発表した。①「政府からの独立性を有し、パリ原則に適合するものとして、人権委員会を設置する」こと、②「人権委員会は内閣府に設置することを念頭」におくこと、③「報道機関等による人権侵害については、特段の規定を設け」ずに、今後の検討課題とする。といった内容。
 これは自公政権時代の旧人権擁護法案への私たちの批判に対してほぼ応えるものであり歓迎したい。2002年の第154国会に閣法として提出され、2003年10月の衆議院解散により廃案となった人権擁護法案は左右からの批判に挟まれて身動きがとれなくなっていた。右からの批判は、朝鮮籍の人や部落解放同盟の人が人権委員になるのはケシカランとか、定義があいまいで逆差別が行なわれるんだという差別意識丸出しのものだったが、左からも法務省の外局では実効性がないとか、報道の萎縮をもたらす可能性があるではないかといった批判が出ていた。
 社民党は当時の民主党、自由党と三党で実務者の会合を重ねて、対案作りに取り組み「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案」としてまとめた。その後、民主党が提案している人権侵害救済法もほぼこの内容を踏襲している。煮え切らなかった法務省政府三役も、ようやくこの方向で腹をくくったというだろう。この見解を前提に、後退することなく前向きな検討がすすめられることを期待したい。

 なお、人権擁護法案への対案について三党で以下の6点について合意していた。
 ①新たに設置する人権委員会は、「パリ原則」に沿った独立性を備えたものとするため、内閣府の外局とすること。
 ②人権救済の実効性を確保するため、都道府県ごとに「地方人権委員会」を設置すること。
 ③人権委員会の構成は、国・地方とも、ジェンダーバランスに配慮し、NGO関係者、人権問題・差別問題に精通した人材を充てること。
 ④救済手続は、任意性を基本とした「一般救済」の他、制裁を伴う調査、調停、仲裁、勧告、公表、訴訟援助、差止請求など、強制性を備えた「特別救済」とすること。
 ⑤「特別救済」は、報道の自由その他の憲法上の要請と抵触しないものとすること。
 ⑥人権擁護委員制度については、抜本的な制度改革を行い、国や都道府県に設置される人権委員会と十分連携をとりながら、地域での効果的な活動ができるようにすること。
(2003年7月10日了承)

 ③④⑤⑥などは積み残されているが、最大の懸案だった①が了とされたことは非常に大きい。なお「パリ原則」とは「国内機構の地位に関する原則」(国連人権委員会決議92年3月3日/国連総会決議93年12月20日)のことで、国内人権擁護機構の権限や責務等の原則について定めたもの。

「もんじゅ」の運転再開2010/05/06

もんじゅナトリウム漏洩場所
 5月6日、日本原子力研究機構は高速増殖炉「もんじゅ」の運転を再開した。
 1995年12月のナトリウム漏れ火災事故で停止中だった「もんじゅ」の運転は14年5ヵ月ぶり。核分裂の連鎖反応が持続する臨界に8日に達する見込みで、13年春に本格運転に移る予定という。
 1985年に着工した「もんじゅ」は、原子炉中で連鎖反応を起こしながら、核分裂しにくいウラン238に中性子を当てて核分裂性のプルトニウムをつくるという「高速増殖炉」の原型炉で、出力28万キロワット。ウランを燃やして発電すると同時に、新たに燃えるプルトニウム作っちゃうという夢のような話なんだけど、高速中性子を減速させないために冷却剤にナトリウムを使う厄介なシロモノだ。
 ナトリウムは水と激しく反応するので、取り扱いが極めて難しい。これが漏れちゃうと、14年前の事故のようなことになってしまうんだな。このときは、事故そのものの深刻さもさることながら、事故を小さく見せるために現場を撮影したビデオを改ざんしたり、虚偽報告がばれたりと事業主体の動力炉・核燃料開発事業団の「隠蔽体質」が大問題になった。
 当時、ビデオ隠しの特命内部調査員に任命されていた西村動燃総務部次長が急死し、警察は自殺としたが、遺族は他殺だとして告発。動燃を相手に損害賠償を求める訴訟が現在も続いている。当時の総務広報訴訟担当理事が怪しいと言われていたりするんだが、まあ真偽のほどは分からないけど、動燃という組織が、ひょっとしてそういうことがあるのかも、と思わせる怪しげな組織だったという面はある。97年には東海再処理施設アスファルト固化処理施設でも火災爆発事故を起こし、1998年には解体・改組され核燃料サイクル開発機構となった。その後、2005年には日本原子力研究所と統合され、現在は日本原子力研究開発機構となっている。
 運転再開のための改造工事後も、ナトリウム漏洩検出器の誤動作や排気ダクトの腐食などのトラブルが続いている。自治体への通報遅れも問題となっている。14年前の事故の教訓が生きているとはいえそうにない。
 一般には軽水炉も高速増殖炉も区別されない場合が多いけど、区別して考えなくては。軽水炉はなんだかんだ電力供給を担って現実の経済社会に組み込まれている現実の存在。直ちに止めるわけにもいかない。一方、高速増殖炉はこれまで一度も電力を生み出したことのない、むしろナトリウムが固まらないように大量の電力で暖め続けているだけの実験施設。これまで9200億円あまりの巨費を投じ、今後も年間230億円の経費が必要と見込まれる。しかも、その危険性は普通の原発の軽水炉とはケタ違いだ。政府は2050年頃の実用化を目標だとしているが、そんなん出来そうにないんだわ。だいたいそのころは人口も相当減っててどれだけ電力需要があるかも怪しい。高速増殖炉なんて、高度経済成長時代の見果てぬ夢なんだから、直ちに撤退するべきだと思うな。ほんと。