コンピュータ監視法が成立2011/06/17

 「ウイルス作成罪」の創設を柱とする刑法改正「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が6月17日午前、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。
 過去3回廃案になった共謀罪法案の一部を切り出し、ウイルスの作成や保管自身を処罰対象にする。通称「コンピュータ監視法案」だ。サイバー犯罪条約に関する国内法と位置づけられる。
 定義の曖昧なままコンピュータ・ウイルスの「作成・保管」を処罰対象に加えることで、市民のPCを監視する広範な網が張られることになりかねない問題法案で、市民や関係者から厳しい批判の声が出されていた。
 共謀罪法案は、犯罪に着手する前の「共謀」自体を犯罪とすることが最大の問題だが、その意味ではコンピュータ監視法案も同じ。日本の法律は犯した犯罪を処罰するのが原則だが、この原則が忽せになる。人を殺せば殺人罪。殺そうとして失敗したり途中であきらめれば殺人未遂罪。殺そうとして凶器を用意すれば殺人予備罪になる。しかし殺したいと思ったり、「殺してやろうぜ」と話し合っただけでは犯罪ではない。この「殺してやろうぜ」と話し合うことを、犯罪にしてしまうのが共謀罪。国会審議では「目配せ」や「まばたき」、「うなずき」も暗黙の「共謀」にあたるとされ、厳しい批判にさらされた。
 「コンピュータ監視法案」も、コンピュータ・ウイルスの作成や保管自身を犯罪化する。日々、ウイルスにさらされているだけの一市民としては、ウイルスを作ることを罰して何が問題なのかと普通に思ってしまう。が、これが危うい。法でウイルスは「不正な指令を与える電磁的気録」 と表現されるが、何が不正なのかの定義はあいまいだ。例えば自分で書いたプログラムのできが悪くて予定通り動かず間違った指令を与えるものができたらどうなるのか。犯罪とこじつけられる可能性がありうるのである。不正な指令を出すコンピュータプログラムが、悪意のあるウイルスなのか、失敗作や不良品なのかの線引きは難しい。プログラマーが萎縮し自由な開発ができなくなる恐れも指摘されている。
 さらに問題なのは、作成段階で処罰しようとすれば、市民のコンピュータ情報を幅広く監視する必要が生じることだ。法案の原案は、捜査のためにプロバイダー(通信事業者等)に対して通信履歴を90日間保存することを要請できるとしていた。捜査当局から「要請」されれば事実上断ることは困難で、半強制的に通信履歴を保存させられることとなるだろう。この際、裁判所の令状も対象者への通知も必要が無く、捜査当局の裁量でネットを流通する情報が何でもかんでも収集されていくことにもなりかねないのである。
 また現行法上、差し押さえされるものは実体のあるもの(PCやCD-ROMなど)に限られるが、コンピュータ監視法案では、データを差し押さえるという概念が導入される。通常差押許可状には、場所と物を特定し明示することが求められるが、電気回線で接続された罰のコンピュータに保存されたデータを複写して差し押さえることは、令状主義を潜脱するものだ。
 なお、日弁連等から懸念が表明されたことを受け、若干の修正が行なわれた。修正の内容は、①対象となるウイルスを「作成、提供、供用、保管する行為」を「正当な理由がない」場合と明記したこと、②差し押さえ対象を「当該電子計算機において作成若しくは変更をし、又は変更若しくは消去をすることができることされている」電磁的記録に限定したこと、③通信履歴の保存を要請できる期間を90日→60日に短縮し、この要請を書面で行なうことを明記したことなどである。
 これでは本質的な危険はかわらない。当初、早期の成立は困難とみられていたが、今国会冒頭で法務省提出予定法案のなかでの優先順位が上がり、とんとん拍子で成立に至った。
 現行法上でもウイルスを使用し被害が生じれば器物損壊で罰せられるのであり、この改正を急ぐ必要はなかったのである。社民党はこの改正に反対してきたが、衆参ともに法務委員がいないこともあって、有効な手立てを打つことが出来なかった。残念です。
 今後、正当な理由なくウイルスを作成したり、ばらまいた場合は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。取得・保管の場合も2年以下の懲役または30万円以下の罰金となる。