参議院選の結果を考える(3)2010/08/25

 今回の参議院選挙の結果をもとに、次期の衆議院総選挙における社民党について検討してみた。
 下の表はこの間の、参議院比例区の得票と、衆議院ブロック比例の得票の推移である。社民党は、2000年総選挙で土井たか子党首・渕上貞雄幹事長体制で、560万票・15人当選(比例、小選挙区当選4名を加え全体で計19名当選)を獲得し、分裂後の最大得票を得た。その後、渕上幹事長が福島瑞穂幹事長に交代し、土井党首・福島幹事長下で取り組んだ参院選挙は振るわず363万票・3人当選に留まった。
 さらに02年9月の小泉訪朝後の拉致問題に関する反社民党キャンペーンや辻元さんの事件も影響して約03年の選挙では17%減の約303万票に後退。これは01年の総選挙比で約46%減、獲得議席は3分の1となる大惨敗でる。この責任をとって、土井党首が辞任し、実務責任者であった福島幹事長が党首に昇進し現在に至っている。その後の選挙結果は一進一退ながらじりじり後退し、今回ついに224万票・得票率3・84%にまで落ち込んでしまった。
■社民党のブロック別得票の推移(クリックで拡大)
ブロック別得票推移
 この間、党員数、地方議員の数、支持労組の状況などどれをとっても後退を続けており、次期総選挙でV字回復を果たす条件があるともいえない。なんとか踏ん張って現状程度を維持できた場合どうなるのか、衆議院選挙の行方について具体的に検討してみたい。
 各ブロックのグラフの赤い棒はこの間の社民党の得票数の推移。青い棒は09年総選挙時の当選ラインと、定数が80削減された場合の当選ラインの予想だ。なお、グラフの上でクリックすると拡大する。

■北海道ブロック
 北海道ブロックは00年の総選挙で比例区から1人(山内惠子議員)を当選させたが、その後の選挙はじりじりと後退し、今回はついに10万台を切ってしまった。もともと北海道は旧社会党の勢力が強固だった地域で、これが現在の北海道民主党に引き継がれている。北海道民主党自身が旧社会党的志向性を色濃く残しているため、現在の社民党が独自性を表わしずらい状況がある。現行の当選ラインに達するためには得票の5倍増が必要であり、定数が削減された場合は得票を7倍増させなくては当選ラインに達しないが、こうした条件はまったく存在せず、ブロック比例で議席を得ることは事実上困難と考えざるを得ない。
北海道

■東北ブロック
 東北ブロックは旧社会党時代からの勢力の多くがいまだ社民党に残っており、九州ブロックと並んで社民党にとっての金城湯池とも言うべきブロックである。00年選挙では52万票近く得票しており、もう少しで2議席目を狙える位置にいたが、その後は低迷して今回は20万票を切ってしまった。比較的厚い基盤を持つはずの東北ブロックでこの成績はショックだ。このままでは次期衆議院選挙では議席を失う可能性が高い。
東北

■北関東ブロック
 北関東ブロックは00年選挙で52万票を獲得したが、その後は低迷し当落線上をさまよっている。05年衆院選では日森文尋議員が当選したが、その後は当選ラインに達していない。定数が20と比較的大きな選挙区であり、議席獲得の可能性も十分あるブロックであっただけに、北関東がこのまま後退していくのか、踏みとどまって議席の回復に繋げていけるのか正念場である。今回の22万票という結果では、当選ラインに遠く及ばない。
北関東

■南関東ブロック
 00年選挙では67万票を獲得し2議席を得たが、その後は後退を続けてきた。阿部知子議員は00年に当選してから、首の皮一枚の状態で議席を守ってきたが、今回の29万票弱という得票では議席を失う可能性もある。阿部議員の個人票も一定程度は期待できるだろうが、党の票が今回のように激減してしまえば議席を維持することは難しい。
南関東

■東京ブロック
 東京ブロックの得票は、北関東と同じように当落線近くをさまよっている。典型的な都市型選挙が中心なので、票の出方の予測も難しい。現状では当選ラインを下回っており、このままでは議席獲得は難しい。
東京

■北信越ブロック
 北信越ブロックは社会党勢力が伝統的に力を持っていた地域が多いが、00年に山口わか子議員を当選させてからは、当選ラインに達していない。今一歩という状況が続いていたが、今回は16万票強と当選ラインの半分ほどまで落ち込んだ。参議院新潟選挙区で近藤正道議員が議席を失うなど、あまり好材料は見あたらず、議席回復は困難な情勢である。
北信越

■東海ブロック
 東海ブロックは自治体議員の数も少なく、党組織の力量などから考えると、相対的にはよく得票してきたともいえるが、00年以来議席が獲得できておらずじり貧傾向が強まっている。今回の20万強という数字では議席獲得は難しそうだ。
東海

■近畿ブロック
 近畿ブロックは00年には84万票を獲得し、比例で3議席を獲得。小選挙区で土井党首と辻元清美さんが当選し、計5議席を得た。その後は比例1議席となったが、2議席を窺う1議席だった。05年には土井さんが比例単独候補として得票を35万票から62万票に倍増させるなど伸びシロのある選挙区でもあった。今回は初めて30万票を下回り当選ラインを下回った。近畿社民党の顔であった土井さんが引退し、辻元さんが離党するなど、好材料は見あたらず、このままだと次回の総選挙ではついに議席を失うという可能性が高まっている。
近畿

■中国ブロック
 中国ブロックは00年に金子哲夫議員が議席を獲得して以来、20万票以下に落ち込み低迷している。今回ついに10万票を切り、議席獲得は困難な情勢だ。地方議員が減り、党勢も縮小を続けるなかで、得票を3倍増させることが出来るとは考えられない。定数削減があれば6倍増させなければならず、いよいよ絶望的だ。
中国

■四国ブロック
 四国ブロックは定数が6という規模の小さな選挙区で、現行制度下で社民党議席を得たことがない。香川のように全国的にも力量のある県もあるが、四国全体でブロック比例の議席を得る見通しがなかなか立たないのが実情である。今回の参院選の得票は6・1万票であり、現行定数のままでも議席を獲得するためには得票を5倍に増やすことが必要。定数が削減されれば8倍増が必要となる。残念ながら四国でブロック比例の議席を得ることは絶望的だ。
四国

■九州ブロック
 九州ブロックでは00年には93万票を獲得し比例で3議席を獲得している。この時は小選挙区でも大分から横光克彦議員(後に民主党に移籍)、沖縄から東門美津子議員が当選し5議席を得た。03年にも比例で2議席を得たが、05年以降は1議席となっている。とはいえ1議席の当選ラインまではだいぶ余裕があり、場合によっては2議席目を窺いうる全国的に最も力量があるブロックである。沖縄県での得票もある程度期待でき、次期選挙でも1議席の獲得は有力である。ただし、定数削減が行なわれた場合は九州ブロックも安泰とは言えない。
九州

■小選挙区
 辻元議員の離党で社民党の小選挙区選出の議員は沖縄の照屋寛徳議員と、大分の重野安正議員の2人のみとなった。小選挙区の場合は多くの場合に民主党との選挙協力(棲み分け含む)を前提に、議席を狙うことになり、比例区での得票を得るための選挙とは求められる内容もだいぶ異なってくる。比較的小さな選挙区で1つの議席を争う小選挙区の選挙では、社民党の固有の主張を繰り返すだけでは苦しい。より広範な勢力を形成し選挙区の多数派を得るための戦略は、党を前面に出して戦う比例の選挙とは別に戦略を立てる必要がある。民主党と与野党に分れて戦う場合、自民党や公明党と組むことは難しいし、多くの選挙区で独自候補を出す共産党と組むことも難しい。民主党との選挙協力なしで単独で当選を狙えるのは現状では照屋寛徳議員くらいではないか。

■まとめ
 参議院選挙後も辻元議員の離党をはじめ悪材料が増えているなかで、現在の後退トレンドを転換することは容易ではない。常識的に予測すると頑張って頑張って現状維持程度ではないだろうか。その場合は、九州ブロックの1+小選挙区で照屋議員が当選できるかということになる。得票が現状維持でも定数が削減された場合は比例ブロックの当選はゼロとなる。定数が現状維持となり、今回の漸減傾向(マイナス25%程度、九州の場合でマイナス16%程度))が続いた場合にも九州が1議席を維持できるかは微妙となる。つまり次期衆議院選挙の当選者は小選挙区で照屋さんが小選挙区で議席を維持できるかどうか、九州が1議席を確保出来るかどうかということになる。

 現行定数の場合は、九州ブロックで1議席+小選挙区
 定数削減の場合は、ブロック比例はゼロ+小選挙区

 衆議院が議席ゼロとなる可能性は決して低くないのである。それほどの切迫した状況であり正念場だということを肝に銘じなくてはならないだろう。

参議院選の結果を考える(2)2010/08/25

 民主党は今回の参議院選挙のマニフェストに「参議院の定数を40程度削減と衆議院比例定数の80削減」掲げている。まだまだこの通りになるのかは分からないが、秋の臨時国会にも法案を出そうという動きがあるし、次回の総選挙が削減された定数で行なわれる可能性もある。
 この場合は、当選ラインが一気に上がることになる。
 下の表は、衆議院のブロック比例について、民主党マニフェストの通りに80減った場合と、何らかの妥協で削減幅が半分の40にとどまった場合の当選ラインを予測したものである。削減後の定数は現在の定数に機械的に180分の100をかけて四捨五入をして調整したもので、具体的な情報をもとにしたものではない。まあこんな感じかな、というくらいのもの。40減の想定も同じ。
 当該選挙の結果に関する党派別議席配分表で、最低得票の当選者の得票数を当選ラインとした。定数が削減された場合の予想定数順位の候補者の得票数である。実際には有力候補が競り合うような構造や、特定候補が圧倒的な得票してしまったような場合は、あまり変わらないように見えるとか、得票の配置次第でだいぶ変わってしまうのだけど、だいたいの傾向くらいはわかる。定数40削減の場合でだいたい5~10万くらい投票ラインは上がり、35万~45万くらいになる、定数80減だと10~20万程度あがって45~60万票程度になりそうだ。

■定数80減の場合、40減の場合の想定当選ライン
衆議院ブロック別当選ライン削減時

参議院選の結果を考える(1)2010/08/25

 今回の参議院選挙の結果の深刻さは、単に得票が減少したという「量」の問題にはとどまらないことだ。
 当たり前だけど、選挙はトップで受かってもビリで受かっても当選は当選。次点で負けても落選は落選。1位当選と2位当選は同じだけど、最下位当選と次点落選では天国と地獄ほどの差がある。当落の境目というのが大きな意味を持っている。
 今回の参議院の場合はこのラインは当選者1人当り約112万票だった。次点は109万だからその差は約3万しかない。330万票と230万票は100万票違っても結果は2人当選で同じ。230万票と220満票は10万満票の差だけど当選者の数が半分になってしまう。
 なにしろ最下位当選者が社民党の吉田さんだから、社民党は崖っぷちなのである。今回2議席に達したのはただの幸運。投票率がもう少し低かったら、あるいは新党ブームで票が分散することがなかったら、当選者1ということは十分にあり得たはずだ。ちなみに前回07年の1人当選ラインは110・9万票(次点は110・7万票)、前々回04年は107・8万票(次点は105・7万票)、01年は102・3万票(次点は100・5万票)であり、少しずつ上がっている。こうしたことを深刻に考えなくてはならないと思う。

 これが衆議院の比例の場合は11のブロックに分れるのでこの傾向がより顕著となる。ものすごく大ざっぱに言うと各ブロックの当選ラインは概ね30万~35万票、全国で約350万票程度。理論上、社民党の得票が各ブロック29万9999~34万9999票の349万89票あっても当選がゼロとなる可能性がある。
 ちなみに下記は、この間の衆議院総選挙における各ブロックの最低得票の当選者の得票すなわち当選ラインである。ダントツの得票を得た候補者がいるのか、当落選付近に団子になって分布しているのか、候補者を出す政党の数や定数の規模、選挙区の事情等によっても変わって来るが、概ね30万~35万票が当選ラインだ。

■衆議院比例ブロック別最低得票当選者の得票
ブロック別当選ライン

 つまり一定のラインを切ると死票がすごく増えてしまう。政党の配置やブロックの規模等によってかなり事情が違うが、ざっと全国700万票を越せると比較的安定して議席が獲得できるし、350万を切るといきなり困難な情勢に陥ってしまう。
 例えば00年の総選挙では比例区の社民党の得票が合計560万票で比例区から15人(選挙区4人)が当選できたが、03年は302万票で5人(同1人)、05年は371万票で6人(同1人)しか当選できなかった。ちなみに09年が306万票で4人(同3人)だ。00年は、37万票で1人を当選させることができたが、03年は60万票で1人同じく05年は62万票で1人09年は75万票で1人である。
 つまり、得票が減っているところに効率が悪くなるというダブルパンチを食らうのである。得票の減少に比例してじりじりと議席が減少するわけではなく、一定の水準を切るときに議席獲得の効率自身が下がるという「質」の変化が生まれてガクッと減っていく。
 社民党にとって次期総選挙がそういう選挙になる可能性が高い。今回の参院選の得票を、つかって次回の衆議院選挙の行方を予想してみたい。